2006年の NHK「紅白歌合戦」で、あの DJ OZMA の一騒動の後で、見事に「HOME」をピアノを弾きながら歌いきった快唱が記憶に新しいアンジェラ・アキ。待ち焦がれた新曲「サクラ色」だ。
決して激しくシャウトしない。比較的穏やかに発声している時間が多い。しかしこの人の声には「芯」がある。
心の中sに「伝えたいこと」とsいう「核」があり、それを直球で、それもじっくりと、聴くものの心に響くように投げ込んでいく。
「サクラ色」は、かつての恋愛と、そのあと苦しい日々を過ごして「自分」と「夢」をつかんだことを歌う。「あなた」という原点があったからこそ、「あなた」と離れてから自分がよくわかり、「夢」に向かって、「否定の言葉に押しつぶされても」「戦い続けた」という歌詞もすぐれものだ。
人を本気で愛したことがあれば、その経験はとてつもない力になる、と私風に読み替えることもできる。その力が「サクラ色」に包まれた風景とともに湧き出てくるなんて、すごいことだし、すがすがしい。 アンジェラ・アキは、この歌をそっと歌い出す。決して急がない。しかし、私たちはぐいぐい歌の世界に引き込まれていく。
サビに至っても決して肩ひじ張らないのただけれど、強く印象に残る。「気合い」というのは、強く「頑張って」やることではないことを教えてくれる。彼女が想いを言葉にきっちり込めて、聴く人に向き合って歌っているから、歌が確実に届く。
彼女の「気」と私たちの「気」がぴったりと合う頃、彼女はちょっと遊び心を加える。「HOME」の一節が出てきて「そんな歌が聴こえる」というフレーズが付け加えられ、2度くり返されるサビの間に挿入されるのだ。
この手法は下手をすると「HOME」パート2のような印象を新曲に与えてしまいかねないのだけれど、彼女はぎりぎりのところでそれを回避し、自然に、巧みに、軽い驚きと感動を添えて、それをやってのける。「HOME」よりも押しが強いこの曲に、かえってホッとする安らぎをスパイスにすることに成功している。
そして彼女の美しい声そのものにうっとりとしてしまうことも、どうしても言っておかねばならない。彼女のキャラクターがきっと反映されているのだろうと思える、温かさに満ちているからだ。
この
CD シングルにはその「HOME」のピアノ・ヴァージョンも入っている。「紅白ヴァージョン」をまんま収録するのはさすがに無理だろうから、そのスタジオヴァージョンを聴けるのはうれしい。
こちらも静かにしかし着実に、私たちを彼女の世界へいざなっていき、その声とメロディとピアノとで、改めて自分の「原点」を考え直してみたくなる気持ちにさせてくれる。
終盤までくると、心がいつのまにか彼女に同調していて、最後のフェイクに感動が止まらなくなる。心地よい説得力だ。 どうかさらにいろいろなテーマで、多彩な歌い方で自己表現し続けてほしい。