ある曲を好きになるきっかけは、本当にいろいろある。自分の心の状態や、その曲を聴いた場所・時間などによって、思わぬはまり方をすることがある。
かつて今のパートナーとデート中、夜ドライブしている時にカーラジオから、突然サックスでものすごく美しいメロディが流れてきた。人気のない道を疾走する車の中でふたりは思わず会話をやめて聴き入った。ケニー
G の「ソングバード」という曲で、当時全米でヒットし始めていた曲。きれいで、穏やかで、感傷的な気分になった。私は勝手に自分たちにプレゼントされた曲だと思っていた。この時のインパクトは忘れられない。
先日、介護等で大変な母親のことを考えながら運転している時、安室奈美恵「BabyDon't
Cry」を何気なくかけた。そしてしばらくして、突然、この歌に励まされている自分を発見した。
はじめに耳をとらえるのは、リズムとメロディだ。リズム感とくれば安室奈美恵。軽やかでしかし複雑なリズムに酔いしれていると、とても気持ちがいい。心もはずんでくる。
メロディもメリハリがあって、落ち着いて歌いつつ、サビのなめらかな盛り上がりがすんなり気分を整えてくれる。
リピートしていくと、歌詞もわかってくる。これは、3年前の恋愛をふと思い出したけれど自分の足で改めて踏み出そう、という決意の歌ではないか。自分で自分をうんと励まして、優しく寄り添っているようにもとれる。
落ち込んでいる時の人間の気持ちが、すごく上手に描かれているし、それを安室奈美恵が、真に迫る表現力で語りかけるように歌っている。
「抱えた不安これ以上解消できず」……いっぱいいっぱいになっちやう時ってあるよね。「鏡に映る自分がまるで別人みたいな日もあるけど」……あるある! 何度もうなずきたくなる。
そんな詞も混じっているのに、テーマは思い出した恋愛なのに、曲全体は明るい。リズムも飛び跳ねている。これっていちばん元気になれる「王道」かもしれない。
フレーズからフレーズへ移る時の、安室奈美恵だけの微妙なタイミングのとり方。バックコーラスとのこれまた微妙なかかわり方。いつもながら感心し、心地よい。
最後のサビのくり返しから、英語詞になっていくあたりの盛り上がりも見事で、彼女の活動が充実してきた感じさえ伝わってくる
。 安室奈美恵も、厳しい人生を送ってきた。やっと落ち着いてひとりで子どもを育てながら、しっかりとした足取りで迷わず歩けるようになったように見える。これからカッコいい作品を連発してくれそうだ。