何ら「変化」しない「直球」がど真ん中に投げられた感じで、スカッとする。Mr.Children
の新曲「フェイク」のことである。
私と Mr. Children との出会いは、1993年にさかのぼる。日本テレビ系ドラマ「同窓会」の主題歌に使われた「CROSSROAD」(メジャーデビュー2年目)を聴いて、桜井和寿の、力強いのにナイーブさにも満ちているヴォーカルのとりこになった。ドラマの方は同性愛を正面から扱う画期的なものになる……はずだったが、あまりにリアルでない台本にずっこけた。
しかし
Mr. Children の方は最高位6位ながら(『オリコン』)ミリオンセラーになった「CROSSROAD」をきっかけに快進撃を初め、今や日本の頂点に立つロックグループになった。
すでに「桜井唱法」と命名してもいいくらい、彼の歌い方は日本のロック界の財産になっている。どんなメロディでも着実に自分のものにして、考えつくされた歌い出しから、少しずつ少しずつさとすように説得していって、聴き終わると完全に彼の伝えたいことを受け入れている私がいる。
どうしてもうまい言葉が見つからないのだけれど、「哀愁」では月並みだし、「繊細」をさらに超えている……人間性という芯が通ったヴォーカルが私たちのこころを揺さぶるのだと思う。
ただ、Mr.
Children は90年代後半から活動休止や桜井和寿の病気など、山あり谷ありの展開になり、個人的にはフォロアーとして、その揺さぶられ方に少しずつ新鮮さを感じなくなっていた。
でもそれは音楽界をリードして疾走していくものの宿命で、求められるものがどんどん高くなっていくからに他ならない。
桜井和寿が復活してからの「HERO」「掌/くるみ」「Sign」「四次元」「箒星」「しるし」と続くリリースは、試行錯誤も含みつつ、そのハードルを確実にクリアしつつあることを示してくれる流れだった。 そしてこの「フェイク」である。抜群にカッコいい。混とんとした部分を含めて、人間の「素」の姿を、叫びにも近い感覚で激しく強く訴えている。
いきなり「僕らなんか似せて作ったマガイモノです」と断言し、「ほっぺたから横隔膜まで誰かを呪ってやるって気持ち膨らまし」と立て続けに、現代の人間が見ようとさえしていないかもしれない「ホンネ」を吐露する。ガツンとした一撃が私たちの心にずしんと響く。
でも歌の主人公は、ちょっとトライして失敗しては、「自分にプライドを取り戻せたのに」と悔やむ。「この手に掴んだものは またしてもフェイク」と絶望して見せる。そして「体中に染みついてい」て、「世界中にすり込まれている嘘を信じていく」と宣言する。
でも私は、この歌は単純な世界/社会への絶望ではなく、心の奥の奥のそのまた奥底では、テイクオフしたいという希望を捨てないでいることを主人公に託していると思う。それは重厚なのにふと明るくさえ聞こえる複雑な色合いを持ったメロディにも現れている。
でも希望を持つことは簡単ではない。リアルだと思っていたらフェイクだったり、フェイクの中に真実を見つけたり……そもそもフェイクとそうでないものと区別できるのか……。とにかく今自分の前に後にある現実を抱えながら、模索の旅を続けるしかない。
この人間の核心を突いたコンセプトを、強烈なリズムに乗せて、全力で歌うのだから、彼の世界観が届かないわけがない。後半の隠しトラック的なインストゥルメンタルも含めて演奏にも、メンバー全員の気合いがとめどなくあふれている。
ラブバラードである「しるし」にも実は似たコンセプトがあり、恋愛感情や愛し合っているふたりの関係は、0か100か、白か黒かでは割り切れないことが描かれている。2曲を合わせてメッセージとして聴くこともできる。 500円で1曲、多種類発売なし、もとてもカッコいい。ただ、40万枚限定なのは、3月発売のニューアルバムにつなげようという売り方だろうか。
Mr.
Children の新しいステージが花開こうとしている。