▼収録曲の違う CD は「同じ」商品か?[ヒット曲の基準とは]
[2006年11月16日(木) ]

 

 多種類販売を考えるために、その実態から始まって、ファンを置き去りにするプロダクションの問題まで考えてきて、残る問題はヒットチャートのことである。

 かつて『オリコン』のチャートに関心を持つ人がほとんどいなかった時代があったなんてウソのように、『オリコン』のランキングでトップをとると、「ニュース」になっていろいろなメディアで報道されるほどになった。

 この時、わずかな差であっても、やはり2位3位よりは1位の方がインパクトがあるのは、人間の心理として致し方ないことか。

 だから、話題を作って人気をあげる手法として、『オリコン』の1位を取ることが大事になってきて、なりふりかまわず1位を取ろうとするプロダクション[音楽事務所]も現れるようになった。

 初めは発売日の工夫から始まった。大物アーティストと競合しない日にする。タイアップとのからみで買うきっかけができる週にする、そして……。

 『オリコン』のチャートは CD の売sり上げだけで決まるから、大量に買い占めればとりあえずランクをあげられる。しかしそんな戦略では先が知れている。いくらファンが熱狂していても、「同じ」CD を10枚も20枚も買ってくれることはありえない。

 では「違う」CD ならばどうか。同じ日に同じ内容だとして発売されるシングル/アルバムの種類を増やせば、ファンはどれもほしくなる。

 初めはファンの要望に応えて、予約者や初回限定盤に「オマケ」を付ける形で始まった「多種類販売」が、チャートのランクアップに使われるようになってくる。これはそう古いことではなくて、ここ数年のことである。ファンが複数枚買ってくれれば売り上げは飛躍的に伸びる。 ここでまず大きな問題がある。多種類で発売された CD は同じ種類の CD であるとして、単純に合計していいのであろうか? 特に収録曲が違う場合、聴く内容が違うものを同じだと主張するのには無理があるような気がする。

 しかし『オリコン』は同じ商品として合算してランキングを作っている。

 いま日本の音楽チャートと言えば『オリコン』だけのように見えるし、それだけの歴史と実力を持った企業であることに間違いはない。しかし現実には、『サウンドスキャン』『プラネット』など、CD の売り上げ集計を発表しているところは存在する。『サウンドスキャン』は米国では、業界誌&チャート誌である『ビルボード』の子会社的役割を果たしていて、CD に付いているバーコードから売り上げ実数を推定して、『ビルボード』のランクに使われている。

 その『サウンドスキャン』『プラネット』はともに、多種類で発売された CD は全て別のCD として集計されているから、『オリコン』とはだいぶランキングが異なる。例えば11月6日付では、『オリコン』では「シーサイド・ばいばい」(木更津キャッツアイ feat. MCU)がトップだが、『サウンドスキャン』では、初回限定盤の Aと B、そして通常盤が別集計になるので、それぞれ2、6、13位となり、トップは「SAYONARA」(ORANGE RANGE)になっている[13日付では WaT の初回限定盤がトップ/『プラネット』でも6日付トップは「SAYONARA」]。

 ※『サウンドスキャン』のチャートはこちらから、『プラネット』のチャートはこちらから見ることができます。

 このようにちょっと集計方法を変えると、ヒット戦線もだいぶ変わって見えてくる。また、週単位のチャートだけでなく、月単位のチャートや、ロングセラーなどを見ていくと、隠れたヒット曲が見えてくることもある。

 もともとチャートの作り方(特にシングル)そのものにも課題がある。いまどんな曲がヒットしているか、その基準を決めるのはなかなか難しい。CD が売れているだけでヒットと言えるか、ラジオでどのくらいかかっているのかを要素に加えるべきではないのか、ダウンロード売り上げも大きな指標になる……。

 米国チャート誌『ビルボード』ではチャート開始時から、いろいろな要素を複合してシングルランキングを作っていた。最初は、レコード売り上げ・ラジオのオンエア回数・ジュークボックスでかかった回数、の3要素で、すぐジュークボックスがなくなり、そして近年ダウンロードが入った。

 そろそろ日本でも、 CD 売り上げだけでないチャートの創造も視野に入れられていいのではないか。要素が複数あれば、チャートを作為的に動かすこともより難しくなる。たくさんの人が支持している曲がヒット曲であるというシンプルな定義にどう近づくかがポイントだ。

 そしてその前に、多種類販売の CD を「同じ」商品として集計するのに無理があることを議論すべきではないのだろうか。チャートが変われば売り出し戦略も変わる。このままでは「ファンが」たくさん買った曲がヒット曲ということになってしまうし、結果的にファンを増やすことにつながらなくなってしまうこともありうる。

 またメディアも私たちユーザーも、『オリコン』のトップだけがヒット曲ではない、という視点の転換が必要なのではないだろうか。以上のようなことも、多種類販売の弊害をなくすひとつの道である。

 

    06年12月05日音楽業界》