「卒業」というタイトルの曲は山のようにあり、毎年このタイトルのシングルを誰かが発売している。それほどいろいろな意味を持ち、さまざまな感情を込めることができ、そして人生のターニングポイントになることが多いのだろう。
1985年はそんな中でも特筆すべき年で、「卒業」というタイトルのシングルが4曲も大ヒットした。尾崎豊、倉沢淳美、斉藤由貴、菊池桃子が1〜2月にこの順で発売してヒットさせ、それぞれ独自の話題を作った。日本の何かのターニングポイントだったのかもしれない。
個人的には尾崎豊には別の思い入れがあるので、私の中にインパクトを残した斉藤由貴の「卒業」について書きたい。
「卒業」は斉藤由貴のデビュー曲で、このヒットをきっかけに、「情熱」「悲しみよこんにちは」「夢の中へ[井上陽水のカバー]」と歌手として人気を確立していった。
一方、「スケバン刑事」(フジテレビ系)、「はね駒」(NHK)、そして「ごくせん」とほとんど同じコンセプトでとても面白かった「はいすくーる落書」(TBS
系)とドラマでもその実力をどんどん発揮していった。今も大活躍しているのは言うまでもない。
「卒業」はまず軽いシンセ音が春らしく飛び跳ねるイントロではまった。続いて、その声に魅せられた。どこか鼻にかかった感じがあるのに、聴きにくくない。それどころか、しっとりとして清楚な感じさえある。
淡々と歌っているようでいて、ひとつひとつの言葉にこまやかな情感がつまっている。作詞=松本隆、作曲=筒美京平という黄金コンビの曲で、物語性のある歌詞に、終始おいしさいっぱいのメロディ。覚えやすく印象的なサビ。今振り返るとヒット曲のお手本のような作りだ。
このシングルを発売日に買った時私は、現在のパートナーと出会うほぼ1年前。自分の仕事にも悩んでいたが、恋愛がうまくいかないことにもっとも頭を痛めていた。
自分が付き合いたいと思う相手は現れるのだけれど、恋愛を始めるまでに、あるいは恋愛が始まるやいなや、自分の想いをなかなかきちんと相手に伝えられず、また相手の気持ちを推し量ることができず、失恋の連続だったのだ。
言いかえると、押してもダメだから引いてみて失敗、引きすぎて失敗したからと強引に進めようとして失敗、相手と波長を合わせて恋愛を進展させることができなくて本当にいらだっていた。
そんな時に、この曲の歌詞にぐっときたのだ。たぶん高校の卒業時が舞台で、好きな相手は東京へ行ってしまう。「離れても電話するよ」「卒業しても友だちだから」と言ってくれるけれど、そしてそれはうれしいけれど、たぶんそれらが実現しないことを予感してしまう……。
だから「守れそうにない約束はしない方がいい ごめんね」「(友だちでいようと言うのは)嘘では無いけれど でも 過ぎる季節に流されて 逢えないことも知っている」と主人公はとってもリアルに現実を見つめる。
私はいつも未練がましかった。恋愛に失敗した後、いつもくよくよ長い時間悩んだ。時には、終わっているのに「もう一度やり直したい」と言い出して、よけいに嫌われもした。 だから主人公=斉藤由貴の現実を見つめる目の確かさと、恋愛をあきらめる潔さに感動した。
スカーフで時間を結び止めたいけれど、相手の未来は縛れない。結論は、卒業式で泣かずに、それで「冷たい人と言われ」ても、「もっと哀しい瞬間に 涙はとっておきたいの」。今聴いてもこのサビで泣けてきそうになる。
そう、失恋の予感をリアルに見つめて覚悟を決め、失恋が確定したら泣けばいいのだ。思いっきり泣けばいいのだ。泣いて泣いてそこから次の希望が出てくるのではないか……。
当時こんなふうに、自分の気持ちを整理できたわけではない。いつも、この恋愛がダメだったら一生恋人なんてできない、と思いつめていた。そんな自分の閉塞感やあせりがこの曲から透けて見えてきたことは確かだ。
ドラマのキャラクターとしては、気丈でタフなキャラクターを演じることが多かった斉藤由貴(ただしすごくナイーブな内面も見せていた)の歌だからこそ、時が経つほどにこの曲は私の心にしみてきた。
そしてそれから1年、この4月某日で知り合って21年になる、今のパートナーに運命的に出会う。その恋愛を、この斉藤由貴の「卒業」が、尾崎豊の「卒業」(こちらは自分の生きるポリシーの再確認だった)と共に後押ししてくれたのは言うまでもない。