9月20日、『フォーク歌年鑑』(フォーク&ニューミュージック大全集)全21タイトルが発売された[タイトルクリックで詳細が見られます]。
主要レコード会社11社が協同で制作したもので、1966年から1982年まで(69・72・73・80年が各2巻)の、フォーク&ニューミュージックのヒット曲が各タイトル17〜20曲収録されている。
ヒット曲マニアとしてはこういうコンピレーションは超大歓迎で、初めて
CD 化される曲も多いし、かつて買いそびれた曲も聴けるし、フォーク&ニューミュージックの歴史もたどれるしで、いいことづくめ。
2000年から相次いで企画された『青春歌年鑑』『僕たちの洋楽ヒット』、それぞれの続編と年代別総集編、そして演歌歌謡編に続く、個人的には全巻揃えたくなるシリーズだ。
ヨーロッパや米国では、こうしたコンピレーション専門のレーベルがいくつかあって、すでに1970年代から様々なコンセプトでヒット曲を集めた
CD が大量に企画・発売されており、失われがちな「一発屋」アーティストのヒット曲など、流行した音楽を文化として保存する役割も果たしている。
実は日本でも1970年代からこういうコンピレーションを出そうという試みはあったのだが、レコード会社各社の非寛容な態度でつぶれており、30年経った2000年に、レコード会社の外(音楽関係者)からの強いはたらきかけもあって、シリーズものが実現するようになった。遅い! とはいえ、今後ともこういうシリーズが企画されて行く道筋がやっとできたことはよろこばしい。
ここまで来たら、過去の音源だけでなく、「今まさに」はやっている曲のコンピレーションを出せないものか。「今まさに」が無理なら「ちょっと前」でもいい。
そんな
CD を出す責任もレコード会社にあるように思える。
というのはここ数年、年ごとに激しくなる多種類販売(CD
に付く特典が CD と別のものでそれだけで「完結」していれば、何とか許容範囲に入るが、収録曲が変わったり特典を全てゲットすると同じ
CD を何枚も買わねばならないとなるとあこぎな商売だ)のために、1アーティストを応援するのに多額のお金が必要になってきているからだ。
そのために、とりわけ若い層は他のアーティストまで
CD を買う余裕がなく、そのために多様な音楽に接しない傾向が出てきている。これでは未来の音楽文化の担い手も育たない。
だから、現在進行形ではやっている曲のコンピレーションが企画されるくらいの度量がレコード会社にあってもいいのではないか。そのコンピレーションから新しいファンが生まれる可能性は大だ。
この話は何やらダウンロード販売の効用についての話にも似ている。米国では、ダウンロード販売の中心は曲単位で、かえってダウンロードで1〜2曲聴いてアルバムをCD
で買うリスナーも増えているという。
そう、テレビの音楽番組の話にも似ている。番組制作者の恣意的なチョイスにまかせるのではなく、公開の基準を設けて、それをクリアしたアーティスト全部に歌ってもらうか
PV を流す、という番組がゴールデンタイムにあれば、もっと音楽は広まる。
そんな広い視野を持つ、未来まで考えられる業界人がもっともっと出てきて欲しい。
さらに、これから音楽をめざそうというミュージシャン/アーティスト/シンガーソングライターの卵にとっても、コンピレーションは大いに役に立つ。
ヒット曲がヒットするのには必ず理由がある。完全に「仕掛け」だけで大ヒットは生まれない。曲の中に多くの人の心をつかむ何か(メロディ、リズム、声、イントロ、アレンジ……)が必ずある。
それぞれのヒット曲をじっくり聴いて、その曲の魅力を分析することは、自分で曲を作ったり歌ったりするのにものすごくプラスになる。実際、今「旬」なアーティストたちも多様な音楽をたくさん聴いている
ヒット曲とそのヒットの理由を勉強したいというアーティストがいたら、もうよろこんで出かけて行って、私のまもなく40年になるヒット曲追究歴を活かして、いろんなアイデアやヒントを提供できるのだけれど、といつも考えている。
様々な意味で音楽ファンにもプロにも「教科書」になる、ヒット曲コンピレーションアルバムが、たくさんたくさん出てほしいと願う。