10代の半ばに、ヒット曲の楽しさに魅せられてシングル盤を集め出してから、ヒットチャートにランクインした曲を全部聴くばかりではなく、アイテムとして持つことが夢だった。
それが実現し始めるのが1980年代の後半だから、まもなく20年になる。米国のチャート誌『ビルボード』を購読できるようになり情報をいち早く得られるようになってからだ。
私は『ビルボード』のシングルチャート
“Hot 100” にチャートインした曲を、雑誌発売日から1週間で集める「趣味」にチャレンジし始める。
ばく大な金額はかからない。日本と違って、チャートにセールスだけでなくエアプレイも入っているし、全米にヒットが広まるのに今でもけっこう時間がかかるくらいだから、毎週チャートインする曲が少ない。10曲を超えることなど年に1回あるかないかだ。
とは言え、その数曲を集めるのに汗と涙の物語がたくさん展開された。
最もしんどかったのが1999年からの数年だった。シングル盤の発売が極端に減って、ラジオでかかる曲がチャートインしないためチャートとヒット曲の実感がずれていく中で、『ビルボード』がシングル発売のない曲もある条件付きで、ランクインを認めたのだ。
アルバムからのカット曲はアルバムを買えばすむが、大問題は新しいアルバムの先行シングルだ。ラジオでしかかけられていないのだから、アイテムが存在しない。さあ困った。
仕事上サンプル盤としてもらえる場合もあるが、日本側の対応は米国に比べてとても遅いのでチャートに間に合わない。
見つけたのがプロモ盤であった。いまだにラジオ局やクラブ用のプロモーション12インチアナログシングルが日本で売られているルートが謎なのだけれど、そんな輸入盤を扱う店がたくさん集まっている渋谷を足を棒にしながら歩き回っては、チャートインした曲のプロモ盤を探した。
それでどうにかこうにか
R&B やヒップホップ系の曲は集まった。ヒップホップの時代になっていたから、これでカバーできる率は高かった。ロックはまだ、フリーランスのライターにもけっこうサンプル盤を各レコード会社がまいてくれていた。
どうしようもなかったのがカントリーだった。日本に何も入って来ない。日本では売れないし会社に売る気もないから、米国からレコード会社にサンプルすら来ないのだ。
それで見つけたのがオンラインラジオだった。ネットでカントリーのカウントダウンプログラムを見つけて、パソコンの前に小型のテレコを置いて録音して、これで「集めた」ことにした。
その他にも様々な工夫とエネルギーを投じて、現在まで「『ビルボード』のシングルチャート
“Hot 100” にチャートインした曲を雑誌発売日から1週間で集める『趣味』」は続いている。
で、ここからが本題で(いつも自分の趣味を説明するのに本当に苦労する)、この「趣味」を続けるのがここ数年でものすごくラクになっているのだ。 まずは
iTunes をはじめとするダウンロードで音源が手に入るようになったこと。
iTunes 以前も違法と裁定されたがファイル交換で簡単に新曲がパソコンに保存できた。いや、今でも念入りにネットを検索し捜索すれば、MP3
ファイルがタダで手に入ることもあるる。
次にオンライン・ショッピングが普及して、世界中の店からCD を買えるようになったことだ。
アルバムに入っているのがわかっていても、そのアルバムがレアでなかなか手に入らないために、東京中の
CD ショップを探し回ったこともある。東京になくてチェーン店各店に電話して、千葉や横浜で見つけて取り置いてもらって、たった1枚のCD
のために遠くへ出向いたこともある。それがオンラインであっさり買える。
そしてこれはここ1〜2年のことなのだが、私がかつてプロモ盤を探して歩き回った渋谷の小さな輸入盤店が、オンラインサービスを充実させ始めたのだ。これまでは手間がかかるので店頭販売しかなかったり、オンラインで売っていても入手までに時間がありえないくらいかかったり……。それが注文して数日で届くシステムを確立してオンラインサービスを次々と始めたのだ。あるプロモ盤が実に良く入る店が今年からそうなっていっそうラクになった。
うーん、つまりパソコンの前に座るだけで、私の「趣味」をやっていけるようになったのだ。今とんでもなく忙しくなった私にとってはありがたいので利用しまくっているが、目標実現が簡単になるのは「趣味」として寂しい面もある。苦労して集め切った快感が「趣味」の一部をなしているのだから。
ところで
J-POP シングルは集めていないのかというと、そんなことは全くない。やはり『ビルボード』に対する趣味になぞらえて、『オリコン』の○位以内入った曲を全部買う(こちらはシングル盤売り上げのチャートなので買うだけでいい)、というのをやっていた(過去形!)。
問題はこの「○」の数で、100にするとさすがに買い切れない。だって7月31日付シングルチャートでは100位までに初登場曲は27曲もあり、これでも少ない方だからよほどリッチでないと買い切れない。
それでも50位以内にした時期が短期間だがあったし、40位以内の設定もけっこうした。衣食住より音楽に金をかけていた時期だ。それが30位以内になり、20位以内になり、演歌系をやめ、今はなかなか自分にフィットする
J-POP が少なく……秘密である。