▼平川地一丁目のたくましいエネルギーに乾杯!
[2006年08月10日(木) ]

 

 8月8日、東京は恵比寿にあるライブハウス LIQUIDROOM で行われた平川地一丁目のライブにでかけた。

 兄・龍之介(高校3年・音楽部所属)と弟・直次郎(高校1年・空手部所属)の高校生デュオを「ナマ」で見るのは初めてだったのだけれど、その歌と演奏の「激しさ」に度肝を抜かれた。

 ふたりとも10代ならではのパワーを、ギターと歌に全力でぶつけていた。たくましさと真面目さときれいな汗が、ガンガン伝わってくる。ここまで「体育会系」デュオとは思わなかった。

 特に直次郎は、身体中にエネルギーをみなぎらせて、壊しちゃうのではないかという勢いでギターを弾くし(手の動きが豪快! 弦は何度も切っていた)、のどの強さも並ではなく(私の好きな大野靖之さんもケリーさんものどが強い……)、声量に身も心も飲まれる。そしてものすごく歌がうまくなっている。

 途中で曲数を数えられなくなるくらいの曲の連発と勢い。20数曲は確実に歌った。実に聴きごたえのある2時間だった。

 もうありったけの気持ちと力を音楽にぶつける。Tシャツとジーンズ。ステージも、ふたりの顔と FRGD(Folk Rock Guitar Duo)の文字が書かれたフラッグが掲げてあるだけのいたってシンプルなもの。何の仕掛けもおまけもない。

 それでも、直球ばかりだからこそ、気持ちがスカッとし、混じり気のないできたてのエネルギーに包まれて飽きない。 そう、この熱気は間違いなく、1960年代後半から70年代にかけてのフォークロックが持っていたものと同じだ。私はタイムスリップしたかのような感覚にとらわれる。

 しかし、そんな感傷的な気持ちを「大好き〜〜〜」「愛してる!」「○○く〜〜〜ん」という女の子たちの声がかき消す。「やっぱりアイドルなのか」と不謹慎なことを思い浮かべてしまって、必死でそれを頭から振り切る。

 これでいいのだ。過去と必要以上に結びつけなくてもいい。いま、この場で、どんな形であれ、フォークロックが若い世代によって再生される光景を目の当たりにしているわけで、改めて感慨にひたる。 とにかく歌いまくる構成で、MC も少なく、何種類かのギターを取り換えるなどのこだわりも見事で、途中に入るのはそれぞれ3曲ずつののソロコーナーだけ。ここで多少語りも入る。

 まだふたりとも話すのは苦手なようで、さっさと曲に行こうとして「もっと話して〜〜〜」と引き止められてまた懸命に話し始める姿がほほえましい。

 ソロコーナーで、直次郎は甲斐バンドの「安奈」、龍之介はオフコースの「YES-YES-YES」を歌った。温故知新。彼らがたくさんフォークソング(ロック)を聞き込み、それが、高校生とは思えない豊かな言葉たちと練れたメロディを創り出していることがわかる。

 その証しとも言うべきカバーアルバム「歌い手を代えて」が9月20日に発売される。あのザ・ブルーハーツの「TRAIN-TRAIN」も歌っているという。平川地一丁目がどんな「気」で歌っているか、早く聴きたい。

 たくさん歌われた中でもっとも印象に残った曲をあえて選べば、今年3月に出たシングル「夢の途中」のカップリング曲だった「校庭に見つけた春」になろうか。

 サビに2回入っている「あぁ」を、全情念をつぎ込むように大迫力で歌う直次郎はただものではなかつた。日本語として輪郭のはっきりした聞きやすい発音を含めて、彼の声質にまた一段とほれてしまった。 ふたりの個性の違いとそのぶつかり合いによって平川地一丁目ができていることもよくわかった。

 予想以上にパッションのある弟に対して、落ち着いた(言い方を変えると「のんびりした」)プロデューサーの兄。そんな「兄に似てきて、部屋を片づけなくなって困っています」と笑わせる弟。声変りに苦しみ、最初はそんなに好きでなかった歌がやっと自分のものになってきたとツアープログラムで語ってもいる。

 兄弟デュオだからこそやりにくいこともあるだろうけれど、ふたりならば超えて行けそうだ。そう言えば WaT のふたりもほとんど兄弟のノリだな、なんてことも思い出したりして。 アンコールも力強かったが、ダブルアンコールにはびっくりして、そして静かに感動した。

 拍手とふたりの名前コールの嵐の中、兄弟は唐突にステージ左手の高みに現れ、マイクもアンプもなしで立ち、「ライブハウスだから」と生歌と生ギターだけで1曲歌ってくれたのだ。これほどの貴重な体験はない。

 ごく間近で、ふたりに語りかけられているような、うれしくこそばゆい感覚に酔えて、「やるな!」と思った。 今回のライブはスタンディングだった。ドリンク付なので、1時間前の開場から10人ずつ、チケットにふられた番号順に入り、ドリンクを持って開場で位置取りをする。
うしろでも何とかふたりの歌う姿は満足いく大きさで見られた。

 歌に心を奪われて足の疲れも忘れ……と書きたいが、ウソはいけない。さすがに3時間以上立ちっ放しはつらい。座ってじっくり聴きたいなとも感じた。

 集めるターゲットが10代中心なのだろうけれど、彼らの音楽は、かなり上の世代まで訴えるものがある。ゆったりとした席で見られるライブも工夫して欲しい。ファン層を拡げるためにも。 それにしても CD だけで聴いているのと、ライブへ行った後とでは、アーティストへの感じ方が激変する。それも心の波長に合うライブだと、アーティストがより身近になり、いろいろなよさを改めて発見できる。

 まだまだ粗削りなところもあるが、創造へ向かうエネルギーなら誰にも負けない。CD だけでは見えにくかった力強さとまだ高校生だという若さを活かして、ぐんぐん成長して行ってほしいし、きっと今以上の音楽表現を見つけてくれることだろう。

 

  《 05年8月7日平川地一丁目 06年9月24日平川地一丁目》