▼ユーザーのニーズ、KAT-TUN の場合
[2006年04月06日(木) ]

 

 現代の企業は、カスタマー(お客)やユーザー(サービス利用者)[まとめて消費者]のニーズ(要求・必要なもの)を無視したら、利益をあげるどころか、経営が傾きかねない。

 ニーズを的確に知るためには、市場調査はもちろん、様々なイベントや特典に伴うアンケート、さらにはクレームまでも参考にする必要がある。そう言えば、 CD にはかつてハガキが封入されていて、景品でつりつつも、その CD に対する意見を求めていた時期があったが、今はほとんどなくなったなぁ。

 先進的な企業ほど消費者のニーズを調査して尊重する。ふたつの IT 産業のサイトからそれを示すコメントを引用しよう。

 「ユーザーの要望やクレームからこそ新しい商品、サービス開発の糸口がある。問い合わせ窓口ひとつないサイトもある。クレームが入っては困るからというのだ。しかし、それは顧客満足度を下げ、長期的に見てその企業の価値を減じて行くことになるのではないか」。

 「ユーザーとの接点になるすべてのチャネルで、一貫したサービスを提供してユーザーの満足体験を増幅させることができる企業は『良い』企業である」。

 そこで、KAT-TUN である。

 音楽業界というのは、消費者のニーズをまともにとらえようという姿勢があるのだろうか。

 KAT-TUN のデビューシングル「Real Face」は、1週目は75.4万枚という近年ではきわめてめざましい売り上げを見せたものの、2週目では8.7万枚、9割近く売り上げがダウンした。

 まさかミリオンセラーにいかないということはないと思うが、もしそうなったら別の大記録を作ってしまうことになる。KAT-TUN にステキなアーティストになってほしいと願っている私としてははなはだしく寂しい事態だ。

 この数字が意味するのは、(1)ファン以外に楽曲に対する支持が広がっていない、(2)最初の1週間ファンがシングルを複数枚買って支えた、ということである。7種類のシングル全部を買ったファンも少なくないだろう。75.4万枚といっても、買った人数は半分以下と見る人もいる。

 この売り方は、消費者(ファン)のニーズに合っているのだろうか。もちろん消費者と言っても、一枚岩ではなく様々な意見があり、その全てを満たすことはできないし、意見を言いにくい状態におかれている人の気持ちを想像することも必要になってくる。

 それに、日本の消費者は本当に企業や大組織に優しい。理不尽な売り方をされても、企業にクレームを付ける人はかなり少ない。不良品の交換でさえあきらめてしまう人さもいる。「売ってやるぞ」という企業に「売っていただけるだけでもありがたい」と卑屈になる。

 日本社会は江戸幕府が儒教道徳を政策的に強化して以来、えらいさんの言うことには文句を言わない「美風」が今も温存されている。生徒が教員に、社員が上司に、直言するのにはとんでもない勇気が必要で、その後の不利益をも覚悟しなければならない。

 だから企業の売り方を批判する方が逆に責められる。きわめて理不尽なこと・とりわけ不利益なことに黙っている方がどう考えてもおかしい。

 そこで提言する。少なくともジャケット違い6種類という売り方(初回限定盤6種類がジャケット違い同内容、通常盤は収録曲が1曲多い)はやはりおかしい。全く同内容の CD を何枚も持つことはどう考えてもムダだからだ。

 しかし、ちょっとでも違ったジャケット写真をファンがほしい、と考えるのは当たり前だしそれこそファンのニーズだろう。ジャケット写真がほしいというニーズと、CD を聴きたいというニーズは、質が異なる。

 それをいっしょにして売ろうとするところに問題の本質がある。この販売方法はおかしい、といってもファンの人たちが納得しないのは、ジャケット写真がほしいことは厳然たる事実だからだ。

 だったら2つのニーズを、そのまま2つに分ければいいのだ。CD は1種類として、ジャケット写真はデビュー記念ミニ写真集といった形で別に売り出す。それでもかなりファンのニーズは満たされるのではないか。

 7種類全部買うなどという破格の金銭的負担もかけないですむ。ファンによっては、7種類ほしいけどお金がない、という人も確実にいるのだ。これも尊重されるべきニーズだ。

 それでは利益が減る、とは言わせない。言ったら、やはり儲けるためにこの発売方法をとったという証拠になってしまう。

 たぶんこう言っても優しくない人はいて、「ファンなら金を貯めてでも全部のアイテムを買え」とおっしゃる。様々な消費者のニーズになるべく広くこたえる「義務」があるのは企業の方なのだ。消費者に企業の言うままに商品を買わねばならない「義務」などない。

 ここで、オリコンブロガーのきむあつさんの記事の一部を紹介したい[全体はこちらをクリックしてぜひ読んでください]

 「伊藤悟さんのブログの3月24日付けの記事、「KAT-TUN 絶好調、しかし関係者はファンの声にも耳を傾けよ![後編]」に対するコメントには、さまざまな声がありました。伊藤氏は以前から一貫して、レコード会社の “とんでもないCDの売り方”について、異議を唱えられてきました。しかしそれは、アーティスト個人を批判しているのではなく、レコード会社という大きな組織に対する意見を述べているのです。

 本当に伊藤氏がおっしゃりたいことは『アーティストは、レコード会社の経営のための捨て駒や消耗品ではない!』ということだと思います。ところが、そのような想いとは裏腹に、記事に対するコメントのなかには、読んでいて悲しくなるようなものもありました。本当のファンだったら、どうして彼らをレコード会社の経営戦略から、守ってあげる努力をしないのでしょうか」。

 全くその通りである。

 さらにきむあつさんは「行政や企業といった大きな組織に対して、私たち個人はもの申すこともできないのでしょうか」と問いかけている

 私たちは、もっと「かしこい消費者」になろうではありませんか。

 

  《 05年1月23日CDの売り方を考える 06年11月9日CDの売り方を考える》