今のテレビ局のほとんどが忘れている「バラエティ」の王道を実践している番組がある。フジテレビ系の「桑田佳祐の音楽寅さん」がそれだ(2000年に放送され、4月からリニューアル復活)。
30分間、サザンオールスターズの桑田佳祐が思いつくままに、音楽を楽しみ、音楽で遊ぶ。初回からして「桑田佳祐追悼特別番組」だから恐れ入る。追悼式の後、生まれ変わった桑田の「音楽寅さん復活記念ロックンロールライブ」がスタジオでくり広げられる……。
番組テーマづくりドキュメントあり、ミニドラマあり、桑田の母校訪問あり、と毎回飽きない構成。すべてに音楽が巧みに華やかにからむ。
ラーメン店・フォーク軒の店主に桑田がおさまって、客と会話をして強引に60〜70年代のフォークソングに結び付けそれを歌っていくコントなどは、瞬間ネタに走りがちなお笑いたちに学んでほしいほどのセンスにあふれていた。
個人的に圧倒されたのは「空耳アビーロード」。ビートルズのアルバム『ABBEY
ROAD』の曲それぞれに、日本語詞を付けて歌うのだけれど、これが「空耳」になっていて、英語から想像される最も近い日本語が選ばれ、裁判員制度から政局・外交まで、すべてが現代への風刺になっている。
たとえば
“I want you. I want you so bad.” は「iPhone 中 円相場」となり「いつドルに回り、いつドブに舞う」と続く。麻生内閣をからかい倒す
“Come Together” では、英語が「みぞうゆう 言うのみ」に置き換えられると、本当にそう聞こえるから不思議だ。政治を題材にしようとするアーティストが皆無な中、桑田の鋭い感覚は貴重だ。
この番組を支えているのは、桑田の音楽、とりわけヒット曲に対するリスペクトだ。ジャンルにまったくこだわらず「多くの人に親しまれたのには訳がある」と言わんばかりにヒット曲たちを再生し、夢と希望でくるんで届けてくれる。実際に彼は、1960年代〜70年代のヒット曲のカバーばかりを歌うライブも何回か行なっている。古い音楽をバカにして聴かず「財産」を活用しないアーティストたちに見習ってほしいものだ。
そして最も見習ってほしいのは、テレビ局だ。大騒ぎしてちゃかしまくり、人をおとしめる小ネタをつなぎ合わせて笑いを取るバラエティ担当者に、じっくりアイデアやギャグを練り上げる楽しさを取り戻してほしい。桑田が、音楽に真剣に取り組み、出演を心から楽しんでいるからこそおもしろい、という原点を確認してほしいものだ。
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