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THE BIG ISSUE 09/10/1 128号〜逮捕されただけで、その人のCDが買えなくなっていいのか NEW!
THE BIG ISSUE 09/9/15 127号〜2年9ヶ月、個人を苦しめ謝らない「オリコン」 NEW!
THE BIG ISSUE 09/9/1 126号〜練り上げられた構成の妙「桑田佳祐の音楽寅さん」 NEW!
THE BIG ISSUE 09/8/15 125号〜テレビの可能性せばめる、ワイドショーだけのテレビ
THE BIG ISSUE 09/8/1 124号〜本気で愛し、リスペクトする人が不在、マイケル追悼番組
THE BIG ISSUE 09/7/15 123号〜テレビは検察・警察ペースで「狂騒曲」を奏でるだけなのか
THE BIG ISSUE 09/7/1 122号〜これでもか、と新型インフルエンザ感染者の行動を追うテレビ
 
【その他の記事】
毎日新聞 07/8/13「特集ワイド--あいたくて 07夏 昭和の主人公たち--ドン・ガバチョ ひょっこりひょうたん島
静岡新聞 07/7/24「ひょっこりひょうたん島 生みの親 人形制作秘話を披露」
静岡新聞 07/7/22「鬼太郎、トラヒゲがお出迎え 片岡さんの人形展始まる」
「コーヒー入れて!」第41号 07年3月 三鷹市発行
 
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逮捕されただけで、その人のCDが買えなくなっていいのか
[THE BIG ISSUE 2009年10月1日 128号][連載 第93回]

 

 それにしてもテレビのワイドショーは、特定の人物をいつまで「血祭り」に上げていれば気がすむのだろうか。この原稿を書いている8月24日の各局ワイドショーのほとんどのトップが、覚せい剤取締法違反容疑で逮捕された酒井法子さんのニュースだ。「独占…酒井容疑者奄美旅行全容」(フジ系)「酒井容疑者の夫再逮捕」(TBS系)「浜松の夜もノリノリ」(テレビ朝日系)「これが疑惑の夫婦部屋」(日本テレビ系)……。

 まもなく1ヶ月、このネタで持たせていることになる。衆議院議員選挙よりも優先順位が上であることに驚く。また同時期に同じ容疑で逮捕された押尾学さんの方が、人が死んでいるだけに「事件性」が高いはずなのだが、酒井法子さんの前にあっては、ワイドショーでも必ず二番手になるか、あるいは無視されている。酒井さんが元アイドルだったこととの落差が視聴率を呼ぶのだろうか。

 これは見ようによっては、ある種の「リンチ」ではないだろうか。罪を裁くのは裁判所であるのに、ひとりの「容疑者」を追い続け、その過去を暴き出し、断罪していく。過労死寸前に仕事に追われ、それをこなすために覚せい剤に手を出すテレビ関係者も少なくない中、他人事のようにこの事件をおもしろおかしく扱っているだけでいいのだろうか。

 「リンチ」はテレビだけではない。酒井氏が逮捕された後、レコード会社は、彼女が出したCDのすべてを発売停止にした。ダウンロードも配信を止めた。これが不思議でしょうがない。犯罪を犯した(それも確定していない)アーティストの曲をなぜ売ってはいけないのだろう。楽曲は、世に出た途端にひとり歩きをするものだし、評価はともかくれっきとした文化遺産である。それがいとも簡単に手に入らなくなるのはどういうことか。策略で逮捕まで持っていけば、有名アーティストをイッキにどん底へ落とせることになる。過剰反応としかいいようがない。

 いま、酒井法子さんのアルバムは、オークションで定価の数倍で取引されている。こんな形で儲ける手段が生まれることをレコード会社はどう思っているのか。ダウンロードで楽曲を販売している iTunes ストアでは、酒井氏のヒット曲のひとつ「碧いうさぎ」が事件から2週間ほど売り上げ1位を突っ走り、今もトップテンにとどまっている。これは、あるコンピレーションアルバムに酒井さんの曲が入っており、何らかの事情で発売停止にできなかったかららしい……。

 テレビを初めとするメディアは人を徹底的におとしめる装置になりつつあるのだろうか。

 

★『THE BIG ISSUE〜ビッグイシュー』は、ホームレスの人たちの仕事を作るために創刊された雑誌です。ぜひ売り手をしているホームレスの方からお買い求め下さい。雑誌の紹介は「こちら」から、販売場所は「こちら」からご覧になれます。

 

 

2年9ヶ月、個人を苦しめ謝らない「オリコン」
[THE BIG ISSUE 2009年9月15日 127号][連載 第92回]

 

 それにしても覚せい剤取締法違反容疑で逮捕された酒井法子さんに対する、テレビの報道の仕方にはあきれる。失踪直後は同情や心配にあふれていたものが、逮捕状が出て(8月8日逮捕)からは、いきなり「転落の軌跡」だの「前からおかしな行動が……」だのとそれまでと真逆の情報を次々と出してきて悪人扱い。いつも通り、覚せい剤を使用しないと耐えられないほど過酷な芸能界の構造的問題点など誰も指摘しない。ワイドショーはこの事件一色になり、大事な政治問題に割かれる時間は極端に減る。さらに初の裁判員制度による裁判報道も過熱する中、小さくしか扱われなかった「大事件」があった。ある裁判が終結したのだ。

 株式会社「オリコン」は、2006年11月、月刊誌『サイゾー』同年4月号に掲載された音楽評論家・烏賀陽(うがや)弘道さん(岩波新書に『Jポップとは何か』という名著)のコメントにより名誉を棄損されたとして、5000万円という破格の損害賠償を提訴した。その理由は、「オリコン」が作製しているCD売り上げチャートの信頼性を疑わせたというものなのだが、後に烏賀陽さんがコメントそのものを『サイゾー』がねつ造したことを明らかにした。「オリコン」がその『サイゾー』を訴えていないのも奇妙な話で、もとから「オリコン」に批判的だった烏賀陽さんを黙らせるための「いじめ訴訟」(烏賀陽さんが勝っても訴訟費用と訴訟の手間で作家活動が破たんする)として多くのライターたちが烏賀陽さんを応援した。

 それなのに一審では「オリコン」勝訴の理不尽な判決。しかし東京高裁に舞台を移して、8月3日「オリコン」側が「損害賠償請求放棄」をして、烏賀陽さんの逆転勝訴が決まった。「請求放棄」とは提訴の誤りと敗訴を認めたということで、二審から『サイゾー』側がやっとコメントのねつ造を認めたため、「オリコン」は上げたこぶしを降ろさざるを得なくなったのだ。

 ただ、法律用語で争いがなくなった場合のすべてを「和解」と総称するために、「オリコン」は自社サイトで、あたかも自分が寛大であるように「和解しました」と書き、まったく烏賀陽さんに謝罪をしていない。本来なら記者会見してわびる筋合いの大きな事件なのに。これを報道した少ないメディアも、短くしか書けないので「和解した」という誤解の多い表現になってしまって、裁判の大きな意味に触れていない。

 このやり方がまかり通ったら、大きな力を持った企業や団体が裁判を悪用して、個人の「言論の自由」をつぶす傾向がさらに強まってしまうところだった。謝らない『オリコン』の傲慢さは何なのだろうか。

 

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練り上げられた構成の妙「桑田佳祐の音楽寅さん」
[THE BIG ISSUE 2009年9月1日 126号][連載 第91回]

 

 今のテレビ局のほとんどが忘れている「バラエティ」の王道を実践している番組がある。フジテレビ系の「桑田佳祐の音楽寅さん」がそれだ(2000年に放送され、4月からリニューアル復活)。

 30分間、サザンオールスターズの桑田佳祐が思いつくままに、音楽を楽しみ、音楽で遊ぶ。初回からして「桑田佳祐追悼特別番組」だから恐れ入る。追悼式の後、生まれ変わった桑田の「音楽寅さん復活記念ロックンロールライブ」がスタジオでくり広げられる……。

 番組テーマづくりドキュメントあり、ミニドラマあり、桑田の母校訪問あり、と毎回飽きない構成。すべてに音楽が巧みに華やかにからむ。

 ラーメン店・フォーク軒の店主に桑田がおさまって、客と会話をして強引に60〜70年代のフォークソングに結び付けそれを歌っていくコントなどは、瞬間ネタに走りがちなお笑いたちに学んでほしいほどのセンスにあふれていた。

 個人的に圧倒されたのは「空耳アビーロード」。ビートルズのアルバム『ABBEY ROAD』の曲それぞれに、日本語詞を付けて歌うのだけれど、これが「空耳」になっていて、英語から想像される最も近い日本語が選ばれ、裁判員制度から政局・外交まで、すべてが現代への風刺になっている。

 たとえば “I want you. I want you so bad.” は「iPhone 中 円相場」となり「いつドルに回り、いつドブに舞う」と続く。麻生内閣をからかい倒す “Come Together” では、英語が「みぞうゆう 言うのみ」に置き換えられると、本当にそう聞こえるから不思議だ。政治を題材にしようとするアーティストが皆無な中、桑田の鋭い感覚は貴重だ。

 この番組を支えているのは、桑田の音楽、とりわけヒット曲に対するリスペクトだ。ジャンルにまったくこだわらず「多くの人に親しまれたのには訳がある」と言わんばかりにヒット曲たちを再生し、夢と希望でくるんで届けてくれる。実際に彼は、1960年代〜70年代のヒット曲のカバーばかりを歌うライブも何回か行なっている。古い音楽をバカにして聴かず「財産」を活用しないアーティストたちに見習ってほしいものだ。

 そして最も見習ってほしいのは、テレビ局だ。大騒ぎしてちゃかしまくり、人をおとしめる小ネタをつなぎ合わせて笑いを取るバラエティ担当者に、じっくりアイデアやギャグを練り上げる楽しさを取り戻してほしい。桑田が、音楽に真剣に取り組み、出演を心から楽しんでいるからこそおもしろい、という原点を確認してほしいものだ。

 

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