いくつかのワイドショーやニュースで新型インフルエンザについての報道を見て、びっくりした。
5月中旬から国内で次々と感染者が見つかった時、海外から帰国した感染者の足取りを成田空港から自宅まで、地図に線や矢印で工夫をこらしてわかりやすく図解して、事細かに説明していたのだ。何時何分に○○でリムジンバスを降りて、△△駅でナントカ線に乗り換え……。
これはいつもうるさく言われる、保護されるべき「個人情報」「プライバシー」ではないのか。名前を出していないけれど、自宅のおおまかな位置まで言っているのだから、簡単に誰なのか特定できてしまう。その人に接触した人、さらにはその人が通ったルートにその時間近くにいた人は検査に行けと言わんばかりだ。
これでは、インフルエンザはもとより、感染者に対する恐怖心さえあおっているではないか。感染力がそれほど大きくないとその時点でも推測されていたはずなのに。
スタジオにいる誰もがその説明に違和感さえ持っていない。まるで、犯罪を犯した容疑者であるかのような扱いである。そもそも「容疑者」だって裁判で確定されるまではさまざまな権利を持っているのに、「犯人」扱いで報道されていることも全くもってありえないことなのだけれど。
この件に心配しているのは私だけではないようで、5月28日の朝日新聞には「感染したときに行動のすべてを明らかにするのは勘弁してほしい」という声が掲載されている。各自治体は「感染症法」に基づいて、感染者の行動や「濃厚接触者」を調査し、さらに「接触者調査」も行なった上で、感染者の行動を記者会見などで公表する。朝日の記事によれば、野球観戦やUSJに出かけたことも公表されているという。後で公表されたとき困らぬよう、寄り道を控えている人もいるらしい。ただ公表しても感染の抑止力になるかは疑わしく、もっと大局的な対策を打つ方が先なのではないか。
思い出すのは「エイズ」(正確にはHIV感染)が広がって大騒ぎになった時期である。「感染者をいかに見つけて隔離し、非感染者を守るか」という報道ばかりされていて、「感染者こそ守られなければならない」という報道はきわめて少なかった。そのために外国人の宿泊を断わるホテルまで現れていた。
歴史や過去に全く「学習」しないのがメディアだ、とつくづく思う。とりわけテレビは、一体いつになったら報道される側の立場にも立った番組づくりができるようになるのだろうか。
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