ドラマ「魔女裁判」があぶり出す「守秘義務」のこわさ
[THE BIG ISSUE 2009年6月15日 121号]

 

 フジテレビ系で深夜枠に放送されているドラマ「魔女裁判」がきわめて重大な問題提起をしている。

 周囲に不幸を引き起こす人生を送ってきて「魔女」と呼ばれる被告が、殺人容疑で裁判員制度による裁判にかけられている。この裁判員たちが、次々と脅迫され、無罪と判断するように強制されていく。

 子どもの命が狙われる、だまされて借金を負わされる、ゲイであることや使い込みやソープランド嬢だった過去をばらされそうになる……裁判員6人中5人がそんなかたちで無罪にまわるようおどされる。被告と弁護士の依頼によって裏でそれを仕組む男がいる。検察側証人も同様に証言できないよう追い込んでいく。裁判員のひとりの恋人の新聞記者には、被告が同情をひくような記事を書かせる。

 ドラマの中では、その5人のうちひとりが脅迫に応じずに闘っている最中で、脅迫の手口の巧妙さと見えない敵の恐さを前面に出し、サスペンスとしてもできのいい作りになっている。

 しかし少し考えれば、このドラマが簡単に現実になることが想像できる。裁判員がどこまで護られて公正な判断を下せるかが不安になる。その根拠は「守秘義務」だ。現行の裁判員法では、評議の経過や他の裁判員の名前や意見等が話せない。違反すると刑事罰が与えられる。裁判員のプライバシーは尊重されなければならないが、評議の内容に関したことを誰にも話せない(それも一生!)のは相当なプレッシャーなのではないか。実際にどう適用されるかは今の時点ではわからないが、規定自体が裁判員に重くのしかかることは間違いない。

 ドラマでは、一人ひとり脅かされていくのを裁判員たちもうすうす気付いていくが、裁判員どうしはもちろん、それを誰にも相談できない苦悩が描かれる。話せない不安から周囲の人間関係までぎくしゃくしてくる。現段階では恋人たちにも亀裂が走っている。

 「守秘義務」が脅迫を容易にしてしまうのだ。ドラマを離れて考えても、裁判官が法的知識がじゅうぶんではない裁判員を誘導したとしてもそれを訴えられないし、自分が判決に対して「少数意見」だったことも言えない。自分がその立場になったら、一生その重荷を引き受けなければならない、と考えただけでゾッとする。

 最高裁の裁判官は「少数意見」を述べられるのに、なぜ裁判員は言えないのか、公正を欠く。評議の内容が公開される方が裁判員制度も活きてくるのではないか。そんな大きな問題に切り込んだ「魔女裁判」に拍手を送りたい。

 

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