ムードだけで報道するメディアの怖さ
[THE BIG ISSUE 2009年5月15日 119号]

 

 この原稿が誌面に載る頃にどうなっているか予測がつかないけれど、民主党代表小沢一郎氏の秘書が逮捕されたことに関して、各メディアの報道の仕方にたくさん疑義が出ている。特に今回の検察の手法が異例づくめで、問題にされておかしくない団体は他にいくらでもあり、なぜわざわざ小沢氏のところだけを特に捜査したのか、その政治的意図を勘ぐられてもしかたがないのに、報道は「小沢辞めろ」の大合唱になってしまって、検察のあり方を問うどころか、自民党の失政への批判まで吹き飛んでしまった。

 最近は何かあると、報道の視点が一通りになってしまい、その背景も掘り下げず、違う視座も知らせず、まるでキャンペーンのように扱うのがメディアの常になっている。それも「ブーム」として使い捨てるから、後に真実がわかっても大きくは取り上げない。郵政民営化がそのいい例だ。世論が簡単に誘導されてしまう。

 とりわけ大問題なのは、小沢氏の秘書が起訴された時、テレビ数局と過半数の新聞とが、「小沢氏秘書、起訴事実を認める」というニュースを流した(3月25日)ことだ。これに対し秘書の弁護士は「秘書は一貫して起訴事実を否定している」と報道の間違いを指摘した(27日)。

 実際、記事の情報源はどこもあいまいなもので「関係者への取材で」(NHK)「関係者の話で」(日本テレビ系)「捜査関係者などによると」(読売)などと書いてある。つまり、検察関係者が勝手に流した情報を裏をとらずに、たれ流ししたことになる。検察側が、誤った情報を意図的に流し、小沢氏と民主党が政権を取れないように、よりダーティなイメージを植えつけようとしたと考えてもまったく不自然ではない。

 しかし、この問題が見事にメディアに載らない。30日には参議院総務委員会でも、NHKの報道に対して野党から批判的な質問が出て、NHKが「十分な取材に基づいており、事実と確信している」と開き直っているという事態なのに、この質疑自体が、NHKはもちろんどこでも、小さくしか報道されない。もちろんどのメディアも反省・訂正などしていない。事実だと確信していても当事者の弁護士の意見も報道するのが「公正」あるいは最低の「仁義」というものではないのか。

 「政府筋」を初めとして、あいまいな情報で報道がされすぎている。これではえん罪なんて簡単に作れてしまうではないか。松本サリン事件の反省などどこへいったのか。何を信じ、何を信じないか、私たちの感性を研ぎ澄まさねばならない。

 

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