「生きる」意味を考えるためには、つらくても「死ぬこと」を見つめることが不可欠である。米国のアカデミー外国語映画賞を取った『おくりびと』は、それがテーマであり、そこに訴えるものがあったのだろう。私は最近まで「死」を見つめるなんて怖くてできなかったし、そんなテーマのドラマや映画も避けていた。
しかし歳を重ねただけではなく、いつどんな事故や事件に巻き込まれるかわからない現代にあっては、今まで以上に「死」を考えざるを得なくなっていることを痛感する。
そんな中で1〜3月期にフジテレビ系「月9」ドラマとして放送された「ヴォイス」は、私にきわめてリアリティをもって迫ってきた。たとえば今、私が突然人生を終えることになったら、たくさんの人(社会も含む)に対して「伝えたかったこと」が残り、くやしく切なく思うことだろう。
しかし法医学の力を借りて、私のメッセージの一部分でも伝えられ、残された人たちの「生」の参考にしてもらえるかもしれない。それが「ヴォイス」のテーマだ。
法医学は、ただ解剖して死因を調べるだけではない。どういうプロセスを経てその人が死に至ったかを考える学問でもある。例えば、工場に勤める女性が「心不全」で突然死する。人間が理由もなく「突然」に死ぬ、ということはありえない。この女性が工員のミスをフォローしようと、長時間残業したために「クラッシュシンドローム(身体が長時間圧迫された後に急に解放されることで起こる)」を起こしたことがわかる。その「面倒見のよさ」「優しさ」がわかっていくことで、遺族の気持ちも癒されていく。
もう一つ例をあげると、スーパーで転倒したケガがもとで亡くなった女性が、末期のガンだったことがわかる。そしてそれを隠して、夫がひとりでも生きられるように考えられる限りの準備をしていたことが明らかになる。その愛情の深さに、夫は改めて感謝し、生きる力をもらい受ける。
こうした死にゆく人たちの「声」を聴いていくのが、法医学教室の若いゼミ生であるところがドラマに深みを添える。そうしたさまざまな人の生き方が、ゼミ生5人の成長につながっていき、その5人も自分なりに法医学を学ぶ意味を考えていく。瑛太、生田斗真、石原さとみらがそれを好演し、脇を時任三郎や泉谷しげるが固める。解剖すべき遺体の1割も解剖されていないという日本の現状にも警鐘を鳴らす。亡くなってもなお人の「ヴォイス」に耳を傾ける……いまいちばん必要なことなのではないだろうか。
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