ゲイであった、サンフランシスコの政治家ハーヴィー・ミルクを描いた映画『ミルク』。その世界を日本で実現しようと「ピアフレンズ」を立ち上げ、活動を続ける石川大我さんに話を聞いた。
▽ゲイに公民権をもたらした、ハーヴィー・ミルク
映画『ミルク』で、ショーン・ペンがアカデミー主演男優賞を取った。ゲイであることを公言して初めて政治家になった実在の主人公ハーヴィー・ミルクを演じてのことである。異性愛者であるペンが、今も嫌悪の対象になっている同性愛者を演じきったという、俳優としての決断力と演技力に驚くとともに、それがアカデミー賞を取れることにも時代の変化を感じる。
そして、そうした変化をもたらす運動を始めたゲイこそがハーヴィー・ミルクだった。バーで集っているだけで逮捕され、翌日には職を追われるほどの弾圧を受けていた米国の同性愛者たち。その中で息をひそめていたミルクは、自分のパートナーと安全で穏やかな生活をしたいために、ゲイに公民権を保障する活動を始める。ミルクはサンフランシスコのカストロストリートのカメラ屋さんとして地域のまとめ役になり、何度も敗れたのち、1977年、同市の市政執行委員に当選する。
しかし恋人との関係を維持することと活動とがなかなか両立しなかったり、暗殺予告などの脅迫をされていたり、常に厳しい精神状態に置かれていた。それでも彼の目線は、同性愛者だけに向いていたわけではなかった。政治家としての行動力も卓越し、職を失った労働者や、差別されていた中国系・ラテン系の人たちや、いち早く高齢者などに対しても、次々と施策を打ち出し支持を得て行く。そんな「人間」ハーヴィー・ミルクを、ほとんどが事実に基づく巧みな脚本(こちらもアカデミー受賞)と、リアルな映像を混ぜた斬新な映像が活写していく。今でもまず政治家が、そして私たちが優先して取り組まなければいけない課題を明快に伝えてくれる必見の作品だ。
「愛」をベースに「希望」を訴え続けた政治家の思いは、理不尽な恨みから同僚の市政執行委員に暗殺されて断たれるのだが、それは確実に現代に届いた。そして、海を越えて日本にも。
▽「ピアフレンズ」、ミルクの世界を日本でも
『ミルク』の世界を、石川大我さん(34歳)は「同性愛者の人権保障で世界から遅れをとる日本では“未来の出来事”のようです」と述べる。彼は、生きる希望を見出せないでいる10代の同性愛者たちにハーヴィー・ミルクが鼓舞されたように、日本で若いゲイをつなぐ活動している当事者だ。
石川さんは「ピアフレンズ」というイベントを始めて7年になる。10〜20代のゲイが安心して集い(公的施設で昼間に開催)、ゲームやクイズをしながら友だちを作れる場だ。毎回参加者は70人を超え、東京以外でも開催されるようになった。自分以外のゲイと出会ったことがないために自分自身を受け入れられずにいたが、ここで同じ性的指向を持つ人に会えて、自分は自分のままでいいんだ、と初めて思えたというゲイがたくさんいる。
石川さんがこのイベントを始めたきっかけは、7年前に、両親にもカミングアウトしながら、難産の末に『ボクの彼氏はどこにいる?』(3月に講談社から新たな書き下ろしを加え文庫として発売)を出版したことだ。ゲイとしての自分を受け入れられるようになる過程を素直につづったこの手記の反響がすさまじかった。自分がゲイであることを隠さざるを得ずにしんどい思いをしてきた若いゲイたちからたくさん共感のメールが届いた。「これを放っておくわけにはいかない、『つながりたい』っていうニーズに応えたいと感じたんです」。その想いは確実に定着しつつある。
「『ゲイであることを隠さずにいられる空間がこんなに気持ちいいなんて』『参加したみんながフツーなのでびっくりしました。これなら友だちや恋人をつくれる、って実感できました』なんて参加者からの感想を読むと、まだまだ続けなくちゃって、思います」と語る石川さんは、「ピアフレンズ」という大事な場を継続するためNPO法人にする準備を進めている。孤立した若い当事者が気軽に立ち寄れるカフェのような「場」もつくりたい、という新たな希望を実現するためにも。日本でもハーヴィー・ミルクが蒔いた種はしっかりと育っている。
「ピアフレンズ」
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