本当に大事な問題を取り上げない民放
[THE BIG ISSUE 2009年4月1日 116号]

 

 テレビがどんなテーマを選び、どんな情報を視聴者に送り出すことを求められているのか。そんな問題意識が制作者たちにどこまであるのだろうか。いつもそんなことを考えているので、2月22日に放送された「NHKスペシャル うつ病治療 常識が変わる」には拍手を送りたくなった。

 私はカウンセリングも仕事にしているので、現在の精神医療に問題があることを肌で感じていた。医師の技量不足による誤診、薬の副作用をまた薬で抑えようとして行われる大量の投薬、心理療法の軽視……。おかしいなと思っても、「権威」ある医者には尋ねづらいし、また答えてくれない医師もいる。セカンド・オピニオンも日本ではとても求めづらい。

 番組は、こうした現状を憂えている医師に登場してもらい、医師の「当たり外れ」に治って行くかどうかが託されてしまう怖さをきっちり告発していた。儲けようと簡単に神経科を始めてしまう医師がいることも示された。さらに、新しい診断方法や研修する医師たち、そして国をあげて薬に頼らぬ認知行動療法に取り組んでいるイギリスを紹介するなど「希望」も盛り込んでいた。

 このところのNHKの社会問題への取り組みには目を見張るものがある。同じ「NHKスペシャル」でも、医療・福祉・食品について問題点を明確にレポートし、国に対しても施策を迫るような内容を展開しているし、国際問題や環境問題でも鋭い取材を続けている。

 教育テレビの「ハートをつなごう」では、早くから性同一性障がいを取り上げ、ついに昨年4月からは、ゲイ/レズビアンが始まった。両者を合わせて、LGBT(レズビアン/ゲイ/バイセクシュアル/トランスジェンダー)というシリーズも続いている。当事者としては、過去NHKの何人ものディレクターがチャレンジしては企画書の段階でけられていた同性愛というテーマが真っ向から取り上げられ、当事者のインタビューを中心にメッセージを届ける構成に感激する。ボランティアとしてやっている同性愛者のための電話相談でも胸を張って勧められる番組だ。

 それにしても、画期的なテーマを選び社会にことの重大さを投げかけているのはどうしてNHKだけなのだろうか。民放では次々と地道な取材を要するドキュメンタリーは削られて行き、シリアスなテーマを取り上げても「エンタテインメント」にしなければ気が済まないようで、結局はバラエティ番組になってしまう。スポンサーも含めて、今どんな番組にお金をかけなければ行けないのか、襟を正して考えるべきではないだろうか。

 

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