人をだまして笑うのがテレビなんだろうか
[THE BIG ISSUE 2009年3月15日 115号]

 

 この連載開始以来初めてのことになるのだけれど、放送を観ずにある番組のことを書く。正確に言うと、観ることができなかったことを告白する。2月3日に放送された3時間スペシャル、テレビ朝日開局50周年番組『ロンドンハーツスペシャル』のことだ。

 お笑いタレントの狩野英孝が、大がかりな「ドッキリ」を仕かけられる。元歌手志望だった(実際歌はそこそこうまく、おまけにイケメン)狩野に、実在のレコード会社から歌手デビューの話が持ち込まれる。彼は、曲をつくり、レコーディングを済ませ、テレビ朝日系の音楽番組にも出演する(収録されても放送はもちろんされない)。ついには千人近くの前でライブまでする。そして「実は……」とドッキリがばらされる。この間1ヶ月と少し。

 私はもともと想像力がたくましいたちなので、もし自分がそんなことをされたら、キレてしまうだろうし、落ち込むだろうし、トラウマがどっかーんと残るだろうと想いを巡らしているうちに、胸がつまってしまった。放送を観たら、狩野に感情移入して腹が立つか、とても悲しい気分になりそうだったので、テレビのリモコンを手に取れなかったのだ。

 それに追い討ちをかけたのが、朝日新聞のテレビ欄の紹介の仕方だった。「ここまでスケールの大きいドッキリ企画を見ると、何だかうらやましくなる」「本人にバレないように、決して笑わない仕掛け人たちのプロ意識(?)は見事だ」と、何のためらいもなく絶賛しているのである。

 でも人が着々とだまされていくさまを見ているのがそんなに面白いだろうか。私たちの感性は鈍り始めているのではないだろうか。本人は傷つかなかったのだろうか。ドッキリは、10年近く続くこの番組の定番でもあるだけに、その影響まで思いは至ってしまう。

 放送後の狩野の反応もあぜんとする。自身のブログでは、「傷つかなかったのか」と心配するコメントをよそに「テレビ朝日のおめでたい時にボクをキャスティングしてくれた事にかんして感謝です」。

 タレントはそこまでされてもテレビに出られることが最も大切なことなのだろうか。さらに、放送で彼が作った楽曲は、『ロンドンハーツ』のウェブサイトで配信され、10万件のダウンロードを記録し、テレビ朝日が彼を表彰したりしている。となると、ぜ〜んぶが壮大な「やらせ」なのでは……とかんぐる気持ちも起こってくる。私はテレビ局がこんな趣味の悪い企画に大金をつぎ込んでいいのだろうか、と思わずにはいられない。

 

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