1月14日に日本テレビ系で放送された「日本史サスペンス劇場」の特別版、「東大落城〜安田講堂36時間の攻防戦…40年目の真実〜」には不満が残った。
当時警視庁にいて、東京大学安田講堂に立てこもった学生たちを排除する機動隊を指揮した佐々淳行の著書を下敷きにしているせいか、主役が完全に陣内孝則演じる佐々淳行になってしまっている。
さらに、学生たち対機動隊の闘いばかりを再現しているので、2時間まるまる戦争映画の様相を呈している。両者がどう攻めどう守り、どんな作戦を展開していったか。いつ学生たちが降参するか、ハラハラドキドキする。背景を知らずにみれば、そこそこのエンタテインメントとして、つまり全くの「他人事」として「気楽に」楽しめるドラマになってしまっている。
決定的に足りないのは「なぜ」「何のために」である。学生たちがどうして、東大に、大学に、社会に疑問を持ち、異議申し立てを始めたのか、それがなぜ安田講堂占拠という行動になっていったのか、ほとんど説明されない。せめて、東大医学部において、学部側と学生たちの交渉の場で乱闘に近い争いになった時、学部当局が、その場にいない学生を処分してしまったことには触れてほしかった。「えん罪」で学生が処分されたことの理不尽さが、一時は在学生の半分を「全学共闘会議」に結集させたことが語られないのでは、当時の学生たちが闘った意味を歴史的に全く継承していないといってもいい。機動隊が、降参して無抵抗の学生にも暴力を振るい続けたシーンもない。
さらにいやらしいのは、最後に陣内孝則に、これで時には世の中を変えるほどの若者のエネルギーが失われなければいいが、と語らせていることである。その後に佐々淳行本人も登場して「今どきの若者には『熱』がない」といって締めくくる。気楽なものである。東大闘争をただの「戦争」ドキュメントにして、それも、学生側が「狂気」にとらわれていたように描いておいて、「今どきの若者」でまとめる感性には怒りさえ覚える。若者たちを当時あそこまで追いつめた「大人」たちとしての反省はないのか。
対照的にNHKは、1月17日、「NHKアーカイブス」の特集として、東大闘争にかかわった学生の40年後をどう生きてきたかを追った「安田講堂落城〜“あの日”から40年 学生たちのその後〜」を放送した(10年後を追った番組をもとに)。歴史的事実さえもバラエティ化してしまう日本テレビ系との差は明らかだ。テレビは歴史さえ歪める。
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