2月15日号に年末年始の番組のことを書くのは気が引けるが、これが今年書く最初の原稿なのでご容赦願いたい。大みそかにNHKが放送した「紅白歌合戦」が、3年ぶりに視聴率を40%台に上げ(後半)、評価が下げ止まった。
これはNHKらしからぬ、なりふりかまわぬ演出によるところが大きい。フジテレビ系「クイズ!ヘキサゴン2」から生まれた「おバカ」キャラ、羞恥心とPabo
を出場させ、フジテレビの局アナまでもが、同局のロゴ入りのTシャツを着ながら後ろで踊った。この民放とのコラボはすでに実験済みで、これからも使われる手法になりそうだ。瞬間視聴率もこのシーンが最高だった。
さらにテレビ朝日系「相棒」で人気が再燃した水谷豊を出し、ミスター・チルドレンには、事前にドキュメンタリー番組を作ってすり寄り、時間も特別に長く歌わせることで初出場を勝ち取った。森進一に至っては作詞家ともめて歌えなかった「おふくろさん」の解禁初出しを紅白の舞台に設定する。これだけの話題作りをして興味を持たれないはずがない。その年に実際にCDが売れた曲を聴ける確率も例年になく高かった。
しかしささやかだけれど、「紅白」復活の理由がもうひとつある。応援合戦などのバラエティ的な演出を極力減らし、歌を聴かせる時間を増やしたことだ。歌手との間の「大人の事情」で歌手ごとの歌う時間に差がありすぎるのが気になったが、とにかく歌それぞれをじっくり聴いて楽しめた。この点では音楽番組の「原点」を改めて確認する結果になった。このささやかな理由の方をこそ注目してほしいものだ。
一方元日のフジテレビ系「新春かくし芸大会」の凋落は目をおおうばかりで、ついに過去最低の視聴率10%割れとなった。かつて「紅白」と並ぶ勢いがあったことが想像もつかなくなっている。この原因は明らかで「かくし芸」が全く行われていないからだ。歌手も俳優も、バラエティからドラマまで何でもそこそここなせる「タレント」にならないと生きて行けなくなったテレビ界で、パフォーマンス(ダンスは必修科目だし、危険な「芸」は罰ゲームなどで常にやらされている)もミニドラマも、すべて出演者の日常の「業務」と変わらなくなり、真剣にやればやるほど「かくし芸」のきわどさ・ゆるさから離れて行き、見る側は見る必然性=意外性を感じなくなる。芸能界の変化の鏡のように、人気回復は困難だろう。
原点は、じっくりとパフォーマンスを伝える姿勢なのではないだろうか。
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