「人生の楽園」はスローライフかもしれない
 [THE BIG ISSUE 2009年1月15日 111号]

 

 テレビ朝日系のドキュメンタリー番組に「人生の楽園」という小品がある。タイトルでソンをしているような気がしているので、もうひとひねりした方がいいと思うのだけれど、中味は濃い。

 新しい夢を見つけて「第2の人生」を始めた人たちの生き方が淡々と描かれる。たとえば、教員だった女性と団体役員を勤めていた男性とのカップルが、就農準備校に通ったのち早期退職して東京から茨城県へ移住し、有機栽培の農業を始めた話を、経過やそれぞれの心情をたどりつつ、わかりやすく30分にまとめている(1回完結)。

 年齢も職業もバラバラな就農準備校のOBが手伝ってくれた様子や、手間がかかり販路を開拓するのが大変な有機農業の苦労などが丁寧に描かれ、「夢物語」ではなくリアルな「生き方」を選び直す苦闘として、観ている側にいろいろなことを考えさせてくれる。

 限定しているわけではないようなのだが、「団塊の世代」前後で、都会から農村へ移住または帰郷して、自然やその土地の人々と濃いかかわりを作りながら生きている人たちが多く取り上げられている。

 近ごろ私は、東京都内で街を歩くのに苦痛を感じる。せわしなく先を急ぎ、余裕がないどころか、怒ったようなあるいはイライラした顔つきで行き交う人を見ていると、そのマイナスの「気」に落ち込んでくるし、疲れてさえくる。駅と電車内はその傾向がさらに激しく、ラッシュ時でも携帯を必死に見ながら階段を上がっている人がいて危ないし、空いた席めがけておおぜいが突進するさまは背筋が寒くなるし、車内で大声で携帯に向かって話されるとうるさいのなんの。これらは性別も年齢も問わない。

 たまにはゆっくり行こうとか、周りの人に気を配り譲り合い助け合うとか、少しでも駅や電車を快適な空間にしようとか、そんなことはまず考えられない気分になっている。格差と貧困がリアルになり、監視カメラがどこにでも置かれる社会の中で、とりわけ「首都」にそのいらだちが集中的に現れている気がする。

 だから「人生の楽園」に登場する人たち、そしてその周囲の人たちの笑顔を見ているだけで癒され、さらには本気で首都圏を離れて生活しようと思っている自分の気持ちに拍車がかかる。番組では都会よりも濃厚な近所づき合いの難しさや、経営のしんどさも出てくるものの、都会の邪悪な「気」に耐えるよりは、乗り越えられそうな気がしてくる。年の初めに「人生の楽園」で改めてスローライフを考えるのも悪くないのではないだろうか。

 

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