「33分探偵」ほど、警察が知恵を尽くせば
[THE BIG ISSUE 2008年11月1日号]

 

 「33分探偵」という風変わりなドラマが、フジテレビ系で9月まで放送されていた。堂本剛演じる鞍馬六郎探偵が、アシスタント(水川あさみ)や単純な警部(高橋克実)らとともに事件の謎を解くのだけれど、冒頭5〜6分でたいてい犯人の目星が付いてしまう。「私がやりました」と犯人が自白する場合さえある。

 ところが鞍馬は「果たしてそうでしょうか」と疑問を呈し「この事件、俺が33分もたせてやる!」と、果てしなく推理を続け、時には関係者の全員を一度は容疑者と見立てて、それぞれの動機や事件を起こした経緯を語り倒す。相当なこじつけになる時もあり、何度も推理は挫折する。そのたびに怪しい情報屋に頼ったり、セクハラばかりしている鑑識官を訪ねたり、刑事がひたすら走ったり……とにかくありとあらゆる可能性をこれでもかと追及していく。

 鞍馬の推理は突っ込みどころ満載だし、鞍馬が走り回るところでは笑うしかないCGが出てくるし、過去・現在のいろいろなドラマのパロディは使われるし、趣味的な「脱力系」ドラマと分類されている。

 しかし私は、ある時期からこのドラマにさりげなく風刺が折り込まれていることに気づいた。簡単に犯人を決めつける警察に対し、これ以上検討の余地がない、というところまであらゆる可能性を考えていく探偵。現実の警察がここまで考え、証拠のチェックをやっていれば、えん罪はまず起きないだろう、という徹底ぶりが見事なのだ。その過程で、事件にかかわる人間模様も解明され考えさせられる。実際、9回のシリーズの中で、2回だけ真犯人が別にいた。

 これは脚本家が確信犯で「ゆるい」ドラマにメッセージを持たせたのか、結果的にそうなったのかはわからない。でも制作費がケタ違いの、同時期のフジテレビ系「月9ドラマ」で織田裕二主演の「太陽と海の教室」が、必然性なく重要な登場人物(高校生)を殺してセンセーショナリズムに走り、せっかくの設定を台なしにしているのに比べて、ひとりの人間が殺された「必然性」を徹底的に追うドラマの方がリアリティがあるのは皮肉だ。ゆるくても徹底した事件捜査のパロディは、中途半端に描かれた高校生の心情より、現実を伝える。視聴率も差があるが、「太陽……」は「月9」としては低レベル、「33分探偵」は土曜23時10分からのドラマとしては善戦、と対照的だ。金とスーパースターを使うことだけがドラマの成功ではない。

 

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