この原稿を書いている8月10日は、北京オリンピックの真っ最中である。開会式のテレビ中継に、いったんはスイッチを入れてみたものの、「国威発揚」という古めかしい熟語がぴったり当てはまりそうな壮大な演出を見て、1分もたたないうちに消してしまった。この開会式を簡素化するだけで莫大な省エネになるのではないか、と考えてますますしらけてきた。いや、国家と企業の大いなる宣伝の場という側面が年々強くなるオリンピックそのものが環境破壊の源のひとつになっているのではないか。
それでも勝者と敗者がテレビの画面に「加工」されて映し出されると、選手一人ひとりは生身の人間なので、そこにはやはり私たちの心を揺さぶる「ドラマ」があり、その感動のおかげでオリンピックの矛盾は隠され続けてきた。敗者がたどる過酷な道についてはきちんとレポートされていないけれど。
しかしインターネットの普及は、悲しいルートでその矛盾を少しだけ目に見えるかたちにしてくれた。自分がかつて競技バドミントンをやっていたというだけの理由で、「ヤフー」でバドミントン女子ダブルスの結果をチェックしていたら、結果速報の下にリアルタイムで誰でも書き込める掲示板が付いていた。
そこには私たちがテレビ観戦をしながらつぶやくであろうような言葉がたくさん並んでいた。「いけっ!」「やったー」といった応援の言葉や感情のほとばしりは、素直に受け止めることができる。ところが数分見ていたら、一般の掲示板同様、とんでもないコメントが付き出す。対戦チーム・相手に対するののしりや中傷、ときには差別的な言葉が次々と現れ、負けそうになるとそれは日本選手にも及ぶ。敗者をなじり倒す人さえいる。選手はここでは、自己満足またはうっぷん晴らしの「道具」と化している。
コメントした人同士でも争いが起こる。「得点経過を書いてくれ」という人に対して「うるさい、BS買え!」。相手の気持ちを考えてみる余裕がまるでない。社会へのいら立ちがそのまま掲示板にも反映されているのを見て、がく然とした。
最終的に「危ない」コメントは、管理者へ簡単に通報できる機能が付いていることもあって削除されて、「美しい」応援ばかりの完成形だけが残るのだけれど、オリンピックが勝利至上主義を多くの人たちに植え付けてしまう証拠を見た感じで心が寒くなった。テレビとネットそしてメディアをあげて日本選手の勝利に強力に感情移入して、自国さえ勝てばいい、というこわ〜い排外主義を育てている気がしてならない。
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