CMを見ても買いたいものがない
[THE BIG ISSUE 2008年7月1日号]

 

 最近、テレビのコマーシャルを見てものを買った記憶がない。絶え間なくおびただしい数のCMが流されているのに、どの商品も自分の日常生活から遠いように感じられる。

 車やマンションなどの高額商品は、そもそもどんな宣伝をされようと、買う金をどこから出せばいいんだ、と突っ込みたくなるし、環境問題とのかかわり抜きに、ひた走り建設されてもなんだかなぁと思ってしまう。

 便利さを売り物にしている商品も、そこまで生活を強迫的に美しく、合理的にする必要があるのかと思えてくる。あるロックグループのメンバーのひとりを蚊に見立てて他のメンバーがやっつける殺虫剤のコマーシャルなど見ていると、蚊を人間が演じている分よけいに、蚊の方がここまで徹底的に殺されるとかわいそうになってくる。

 消臭剤にはそこまでにおいを消さなくても生活できる、と叫びたくなるし、カビ防止剤や強力な洗浄剤に対しては、無菌状態がベストではなく、うっとうしくても害虫とさえ人間はそこそこ共生してなかったのだろうかと疑問がわく。ほどよく散らかっている方が落ち着く、という人は少数派になってきたのだろうか。それに、虫や菌を殺す成分は、殺す力が強いほど人間の身体にも悪いことは明白だ。

 食品も、ラーメンにしろ菓子にしろ、多様化しすぎて選択肢ばかりが増えていき、それにともなって関心はどんどん薄れていく。新製品フェチの人も多いけれど、それはテレビに躍らされているだけと考える私にはしらけるばかりだ。

 食品CMの最大の問題点は、安全性を訴えるものがほとんどないことだ。いや、安全性を訴えられないのかもしれない。視聴者がそこに関心を置いていないこともあるだろう。超長期連載マンガ『美味しんぼ』が最近、添加物や農薬などの食品の製造上の問題を正面切って取り上げた(コミックス101巻・小学館)。食品会社からの圧力があったらしいことがほのめかされている中で、快挙だと思う。テレビ番組でも食の安全性を問う番組は新しいタブーになっているからだ。好きなタレントが添加物満載の食品をほめたたえていると哀しくなる。

 商品が、日常生活に必要なレベルより多くなりすぎていて、それを無理やり売るためにCMが使われている。それをちょっとクールに見れば簡単に宣伝されている商品に飛びつく気は失せる。本当に私たちが大切だと思えて、未来に希望を与える商品を開発できるのかどうか、できなければCMも空しくなるばかりだろう。

 

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