テレビドラマのメッセージは届いているのか
[THE BIG ISSUE 2008年6月15日号]

 

 知り合いのAさんから聞いた話なのだけれど、Aさんがあるいさかいの仲裁をかって出て、より攻撃的で暴言を吐いているBさんに対して、相手の立場も尊重してもう少し穏やかにコミュニケーションできないのかといさめたところ、Bさんに「そんな理想は無理、テレビドラマの中だけ」と言い返された揚げ句、逆にひどい言葉を投げ
かけられたという。

 Bさんはテレビドラマもたくさん見ているし、メッセージ性のある音楽もたくさん聴いている人だったので、Aさんはショックを受けたという。

 テレビドラマには荒唐無稽なものも多いが、それでも人間を描いている限りでは、現在のバラエティ化したテレビの中にあって、もっとも期待ができるし、生き方や社会のあり方を考えさせてくれる視点をまだまだ持って制作されている。テレビドラマを現実とは切り離された虚構の世界、と言い切るには無理があろう。

 例えば4月開始のドラマの中でぶっちぎりの視聴率トップを走っている、仲間由紀恵主演の「ごくせん」(日本テレビ系)。主人公の教員・ヤンクミは江戸一家4代目でもあり、毎回悪意ある連中をスカッとやっつけるシーンが、水戸黄門的に「お目当て」になっている。しかし、ストーリーそのものから見ると、そのシーンはおまけのようなもので、毎回高校生と大人たちとがどうかかわるのか、考えさせる視点をたくさん提供してくれている。

 一度、悪さをしただけで、教員にも警察にも、何かあると「オマエがしただろう」と疑われる高校生を必死で守り、彼を信じ無実の罪を晴らしていくヤンクミ。月並みな設定ではない。私が10代・20代に話を聴くと、そんな嫌疑をかけられるケースはいまだにごろごろしている。

 Bさんならば、高校生を身体を張って守り抜くところにうそくささを感じるのだろうか。しかし、ややリアリティが欠けていたとしても、提起されている問題は深刻で解決しなければならないものだし、自分と向き合い、人を信じ、時には必要とあれば闘いを挑むことの大切さはわかりやすく鮮明に訴えられている。

 ドラマとはそういうものである。そこから何を読み取るのか。読み取る側の感性も問われる。Bさんは「理想」として大事なメッセージを切り捨ててしまっているのではないか。ふと考えるのは、「ごくせん」の視聴率がトップであっても、視聴者が番組をバラエティふうに観ていて、そこに込められたメッセージを現実とまったく結び付けていないかもしれない、ということだ。

 

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