視聴率ほどではないが、CD
の売上枚数も全 CD ショップを調査したデータなどはなく、推計値でチャート誌がランキングを公開しているが、どこまで正確か、さまざまな疑義が提出されている。
例えばテレビのほとんどが使っている「オリコン」のランクは、「15682枚」など売り上げ実枚数を1ケタ台まで出しているが、推計値で1ケタまで出せるとは思いがたい。数字操作の疑いもささやかれている。視聴率の1%台には統計的誤差が最低でも数%含まれているというのに、その下の小数点第1位まで出してその細かい差に一喜一憂している構造と同じである。
ところがそんな素朴な疑問を雑誌社からのコメントとして語り、しかも雑誌社が不正確な表現の訂正に応じなかった事実があるにもかかわらず、「オリコン」はコメントしたジャーナリスト烏賀陽(うがや)弘道さん(『J
ポップとは何か』=岩波新書、等の名著がある)に、2006年12月、名誉棄損で5000万円の損害賠償を払えという訴訟を突然起こした。
訴訟の前に話し合うことはできなかったのか、また、チャートの信頼性を証明する義務は「オリコン」側に在るのではないか、など「オリコン」のやり方には業界内でも批判が出た。今この記事を書いている私もそうだけれど、「オリコン」批判を書いて訴訟を起こされたら……と思うと筆が鈍る。当座の裁判費用だけでフリーライターはつぶれてしまう。そんな形で烏賀陽さんを見せしめに、批判に対する抑止効果を狙ったと思われてもしかたがない。
ところが、4月23日に東京地裁は、烏賀陽さんのコメントそのものが「オリコン」の社会的評価を低下させたとして、「オリコン」勝訴(ただし賠償金は5000万から100万に減額)の判決を下した。理不尽きわまりない。
偶然同日、広島高裁で山口県光市で起きた母子殺害事件に対する判決も言い渡された。事件当時少年だった容疑者に対して「死刑」が適切かどうかの議論は置くとしても、メディア特にテレビがこの判決まで、容疑者がいかにとんでもない人間で「死刑」にじゅうぶん値する、とくり返し流し続け、「そんな奴は殺されても当然だ」という雰囲気が形成されて行ったことが怖い。
この「とんでもない奴」が「戦争や政策や国を批判した人」に変わっていかない保証はない。4月23日が、大きな力を持つものを批判できなくなった日にならなければいいが。
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