「ゲゲゲ」の原点『墓場鬼太郎』の魅力
[THE BIG ISSUE 2008年3月1日号]

 

 フジテレビ系アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』が絶好調だ。視聴率はアニメ部門でベストテンを下らず、実写版映画の第2弾も製作中で、キャラクターグッズが次々と発売されている。絶妙な目玉おやじと鬼太郎の父子コンビにさまざまな妖怪がからみ、毎回人情(妖怪情?)もあふれる、心地よいハラハラドキドキを提供している。

 ただ昨年4月の放送再開当初と比べて、最近少し路線が変わってきたように思う。環境や霊的なものに対して敬意を払わない人間たちをこらしめるというテーマが減り、妖怪たちそのものが、この資本主義社会に組み込まれておかしくなっていく話が多くなってきた。

 例えば、妖怪横丁に妖怪が出している店が、新規開店したクレープショップに負けて、鬼太郎グッズを売り出して競争になり事件を起こす。死神が魂を集めるノルマを課されて(給料が変わる)目を血走らせて死に際の人間を探す。妖怪たちも、生活のために「人間的」になり、金をかせぐことを優先順位の上位に持ってきているのだ。

 妖怪はもう少し自由に生きられるはずではなかったか。今でも主題歌では、学校も試験も会社も仕事も病気もない、と歌われているのに。時代が妖怪をも巻き込むくらいおかしくなっている、ととれなくもないが、もう少し人間の愚かさや間抜けさが強調される楽しさを取り戻してほしい。

 それを意識してか、1月からフジテレビ系深夜アニメ枠で『墓場鬼太郎』が始まった。水木しげるが最初に貸本に書いた(1959年〜)「原点」のアニメ化で、映像は舞台も当時そのまま、さらに時代がかった感じを出すため紗をかけるなど、『ゲゲゲ』とは全く違う雰囲気を出している。声優もアニメの第1シリーズと同じ。だから目玉おやじの田の中勇だけ今の『ゲゲゲ』と共通になる。この人の演技は秀逸で、いつもセリフが待ち遠しい。

 鬼太郎は髪の毛針もリモコンゲタも使わず、妖怪を退治するというよりは、幽霊族のたったひとりの生き残りとして、人間という生物の矛盾を冷笑しながら人間界で生きていく。髪の中にいる「お父さん」を振り落としても自分の関心が向く対象へ向って行ったり、人間に冷酷に接したり、日曜昼間の鬼太郎とは別人のようだ。

 『墓場鬼太郎』はきわめてリアルで、鬼太郎も「正義のヒーロー」でいるつらさも感じさせず、マイペースにユニークなキャラクターを生きている。スカッと解決はしないけれども、精神を微妙に揺すぶられる。妖怪ファンとしては俗化しない『墓場』派を決め込みたい。

 

★『THE BIG ISSUE〜ビッグイシュー』は、ホームレスの人たちの仕事を作るために創刊された雑誌です。ぜひ売り手をしているホームレスの方からお買い求め下さい。雑誌の紹介は「こちら」から、販売場所は「こちら」からご覧になれます。