メディアにかかわる人間は、時代感覚にあまりに鈍感だ。これを「KY(空気が読めない)」といえば話は早いのだが、このことば自体、人間同士の直接的コミュニケーションができなくなった時代の産物だと思うので使いたくない。
2007年は、えん罪事件が大きく話題になった。富山では服役後に真犯人が現れ、異例の富山地検からの再審請求で改めて無罪判決を受け確定した。鹿児島県議会議員選挙の買収事件でも、えん罪が明らかになった。えん罪防止のため取り調べにビデオを導入する法律も作られようとしている。
そんな中、日本アカデミー賞で、えん罪を晴らすことがいかに困難かを描いた「それでもボクはやってない」が11部門にノミネートされ各部門で「ALWAYS 続・三丁目の夕日」などと最優秀賞を争っている(12月18日)。
同日、国連総会で「死刑執行の一時停止を求める決議案」が104対54で採択された。その理由には、死刑の犯罪抑止効果に確証がないことばかりではなく、えん罪を完全になくすことができないことも含まれている。
ところが、11月16日に香川県で起こった三浦啓子さんと孫娘2人が義弟に殺された事件が報道された際、殺害された姉妹の父親に対して、各ワイドショーは「疑惑の目」を向けた。その父親が個性的なキャラクターを持っていたため、格好のターゲットになったのだ。
TBS系の情報番組「朝ズバッ!」では司会者みのもんたが、父親の行動に細かく「おかしい」「不思議だ」とコメントし、あたかも容疑者であるかのような心証を視聴者に印象づけた(謝罪なし)。ネットでは父親を犯人と決めつける書き込みが急増、ブログで犯人だと断定したタレントは事務所から1年間活動休止処分を受けた。
さらに驚くことにあるワイドショーでは、父親が理由あってパトカーに乗り込んだだけで、裏付けなどまったくなしにレポーターが「任意同行されるもようです」と決めつけた報告をしていた。父親がメディアに対して強烈な不信感や怒りを表現したのも当然だ。
これでは事件が起きた時少しでも一般的でない反応をしたら、メディアの手によって、あっという間に「容疑者」どころか「犯人」にされてしまうではないか。メディアは、政治や文化を動かすだけでは飽き足りず、ついに裁判所にさえなってしまったようだ。今えん罪にスポットが当たっているさなかに、メディア関係者の人権感覚の乏しさが露呈したことに慄然とせざるを得ない。
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