今年もテレビを信じないよう腐心する
[THE BIG ISSUE 2008年1月1日号]

 

 このエッセイを読まれている方は今、「紅白歌合戦」は相変わらず迷走していて、「新春隠し芸大会」はタレント泣かせの「曲芸」大会だなぁ、とテレビを批評し合って酒のさかなにし、一方で「箱根駅伝」に熱狂しているかもしれない。

 と書き出した私は11月24日にいる。このタイムラグがいつも悩ましい。でもあえて今回は「年頭」を意識して書きたい。テレビが本当は何も伝えていないことを。

 「技能五輪」をご存知だろうか。静岡県沼津市などで11月に第39回技能五輪国際大会が開かれ、日本は参加国中最大の金メダル16個を獲得した。精密な機械を加工して組み立てる「ポリメカニクス」をはじめ、「溶接」「自動車板金」「造園」「移動式ロボット」など、熱い「闘い」は見るものに感動を与えるはずだ。おなじみの大げさな演出をすれば視聴率がとれるドラマに仕上がるものもあるだろう。

 しかしテレビはちょこっとニュースで紹介するだけ。金メダルとかナショナリズム的なものがお好きな人たちも、メジャーでないととっても冷たい。私たちに伝えられる情報は選ばれているのだ。

 放送するだけ放送し、あおりにあおって、取材対象にストーカーのようにつきまとっても、「その後あの人は……」というフォローはめったにやらない。「ナントカ還元水」は本当にあったのか、必要だったのか。誰も答えてはくれない。当事者が亡くなっても明らかにすべきことはたくさんある。

 6月に時津風部屋で起きた「リンチ殺人事件」(私の独断であえてこう言う)はいまだに「急死問題」などというあやふやなネーミングで続報がない。なぜ愛知県警がいまだに誰も起訴しないのか、相撲界で他に似た事件はなかったのか、これまた誰も答えてくれない。

 11月12日、慶応大学の榊博文教授が、「答え(結果、決めぜりふ……)はCMのあとで」などとテレビ番組のいちばんいいところでCMを入れることは逆効果である、という調査結果を発表した(「山場CM」というのだそうだ。86%が不快に思い、42%がスポンサーにも好感を持たず)。私は拍手した。しかし甘かった。誰もきちんと反省していないし、「山場CM」はほとんどなくなっていない。

 こうした私の疑問が、このエッセイ掲載号発売までに解消されているだろうか? 今年もまた私たちは、テレビをどうやって信じないようにするかに腐心しなければならないのだろう。

 

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