テレビとプロ野球の関係の変質
[THE BIG ISSUE 2007年11月15日号]

 

 サッカーのJリーグは、地域に根ざしたクラブ運営を見事に定着させてきた。その成果がようやくプロ野球にも及びつつある。とりわけ人気の面で後れを取ってきたパシフィック・リーグは、シーズン中でもイベントや地域との交流にエネルギーを割き、球場に足を運んでくれた人たちにもプレゼントや選手からのサービスをするなど工夫を続けた。

 札幌(ファイターズ)、福岡(ホークス)、仙台(ゴールデンイーグルス)などではファンが増え、球場にも着実に人が集まるようになり、マナーも向上している。地元のテレビ局も中継を増やして協力している。その熱気はスポーツニュースを見ているだけで伝わってくるほどだ。

 不思議なのが千葉で、マリーンズの本拠地がありながら、千葉テレビは週1回程度しか放送しない。それでも観客動員数では、ホークスとファイターズに次ぐ。どうしてか。

 少し視野を広げると答が見えてくる。首都圏の球団以外は、タイガースやドラゴンズやカープの例を出すまでもなく、セントラル・リーグも含めてもとから地元とつながっていたのだ。テレビ局も、ジャイアンツ戦優先がネットワークの方針であろうと、地元チームの中継を必死で組み込んできた。

 つまり首都圏には球団が5つもあり、さらに視聴率がとれるジャイアンツ戦が何をおいても最優先に放送されてきたために、ジャイアンツ以外の球団はテレビ局に頼ることができないのだ。

 歴史をひもとけば、1953年に読売テレビ=日本テレビが日本で最初の民放放送局として作られた時すでに、ジャイアンツというブランドをつくり全国で売って儲けよう、というプランが設定されていた。ナイター中継は狙い通り日本の「文化」となり、長嶋と王が作った黄金期がそのブランド的価値を大きく高めた。日本国民を政治的関心からそらす陰謀だ、という噂を信じたくなるほどこの戦略は成功した。

 しかし今や、勝つために手段を問わないジャイアンツ(毎年金で他球団のエースや4番打者を取ってくる)の体質、選手の「優等生」化による魅力の半減、地域になりづらい東京の性質などが合わさって、人気も視聴率も急降下、今年はついにジャイアンツの優勝決定シーンが初めてナマ中継されないという歴史的事態にまでなった(ジャイアンツが弱いから視聴率が取れないという神話もウソと分かった!)。

 だがこれが健全な姿なのだ。テレビがプロ野球のあり方を規定する時代がやっと終わろうとしている。それぞれの球団が地域を基盤にして、球場に足を運んで現場で楽しむのがスポーツの基本的な醍醐味だ。だからテレビ中継なしにトップクラスの応援団を築いたマリーンズの努力を評価し、このおいしいコンテンツをテレビが「いただく」のが筋だ。首都圏のテレビ局は、ジャイアンツがこけたらもうプロ野球を見捨てるのか。他の4球団のもっと面白い試合を中継して人気を育てようとしたらどうか。

 

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