「欽ちゃんの70キロ」の本質
[THE BIG ISSUE 2007年10月1日号]

 

 8月18日〜19日の放送で30回目を迎えた「24時間テレビ・愛は地球を救う」(日本テレビ系)の「24時間・チャリティーマラソン」は、第1回で司会をつとめた萩本欽一が70キロメートルを「走った」。

 昨年の10月から練習を始めたということだが、史上最高齢66歳での挑戦はさすがに苦しそうだった。途中から左足の感覚がほとんどなくなるほど疲れ切り、終盤はいつダウンしてもおかしくないほどで、見ている方がつらかった。それでも、番組終了時には間に合わなかったものの、次の番組の中でゴールイン、その時の視聴率は43%にも達した。

 かつて「思いつき」で構想されたというこのマラソン、今では番組の中核といってもよく、番組内で60回以上、走りの様子がレポートされる。深夜4時間、間が空くことを考えると、1時間に約3回となり、そのたびに総合司会の徳光和夫らの感動をあおるコメントや励ましが投げかけられる。例えば「24時間に出会えるという気持ちで走り続けたい、歯を食いしばることは、若い人も老いも関係ないだろう……そんな思いで欽ちゃんは今、武道館に向かっております」(徳光)。

 私はこの企画を最初に聴いた時、自分の年齢(54歳)を考えても萩本欽一がほぼ徹夜でマラソンをするのは危険ですらある、と直感した。数字的には、ほとんど歩いても24時間で到達できる距離だが、真夏であり、彼の体力と彼が喫煙者であることを考えると、日本の「お笑い」界の宝にもしものことがあったらどうするのだろうと心配になった。

 そもそも募金を増やすにしても(番組終了時に約3億6千万円)、ここまでタレントに身体を張らせる必要があるのだろうか。またなぜ、なんのためのマラソンなのか。そんな問いは、テレビ出演者たちの感激そして絶賛によってかき消されてしまう。

 きっとこの大かがりな「命がけ」のショウの本質は、私がした「心配」にあるのではないか。何かが起こるにせよ、起こらないにせよ、「はらはら」「ドキドキ」観られるものに人は生理的に興奮する。勇気や希望を与えられて感動しているだけだとはどうしても思えない。

 たまたまこれまですべてハッピーエンドで終わっているからいいようなものの、こんな「賭け」を続けているテレビは、いつかほころびが出てくる気がしてならない。このマラソンはたびたび、ショートカット疑惑(近道をして本当に指定された距離を走っていない)を否定してきているが、どんな工夫ややらせがあろうとなかろうと、人の健康を軽視している部分がつきまとうことに間違いはない。

 「無理」を強行しそれを「根性」で乗り切る……それ自体を全否定はしないが、目的や理由が明確にあってこそ意味を持つ行動なはずだ。そう考えるとマラソンの意味に疑問を持たざるを得ない。「愛」や「安心」の保障がないテレビが、果たして地球を救えるのだろうか?

 

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