この7〜9月期のテレビドラマでは、1ヶ月を経過したところでフジテレビ系「花ざかりの君たちへ」が人気トップを走っている。全寮制の男子高校に女子が入学するというありえないストーリーながら、非現実の中であるがゆえに、10代後半の揺れる心情や友情がかえってリアルに表現されていて、見るものに心地よい衝撃を与えてくれる。
一方、私が期待したTBS系「地獄の沙汰もヨメ次第」は低迷している。江角マキコ演じるタフな社長が、好きになった相手のきわめて古風な母親(野際陽子)とぶつかる。嫁姑という定番ながら、ふたりのキャラクターもあって破天荒なバトルをくり広げてくれるものと思っていた。ところが、どの回も大体展開が予想できてしまって現実より意外性がなく、小気味よい解決もないまま「何となく」終わる。他人事目線で眺めているだけで、ふたりがどうしてそれぞれの価値観を持つに至ったかが見えてこない。要は、中途半端なのだ。もったいない。
ドラマというのは何らかの意味で、私たちが生きている現実に衝撃を与えなければ面白くない。そのためには大ざっぱに言って2つのアプローチがある。現実を丁寧に精緻に再現して訴える手法と、非現実の世界を作りあげてそこにデフォルメされた人間を描くことで現実を浮かび上がらせる手法である。
かつてテレビ人形劇『ひょっこりひょうたん島』は、世代や性別や職業の違いを超えて大きな支持を得た。作者たちが、まったくありえない世界(アラビアンナイトから抜け出たような砂漠の王国や、ギリシャ神話に出てくるような神々や、海賊・魔女・ギャング……)を使って、お互いに違っている人間が、ケンカもしながらどう折り合っていくか(共生)をリアルに盛り込んだこともさることながら、人形そのものが初めから人間のパロディで、その世界を見事に表現したからだ。
「実体」がある人形が、人間には不可能な動きをすることで、非現実だと確信させつつ内容は人間の本質をとらえる。アニメでも同じことが言えるけれど、2次元よりも3次元の方が、より強く人間を風刺できる。
「花ざかりの君たちへ」の原作がコミックであることを考えると、このことがよくわかる。「地獄の沙汰もヨメ次第」にはない人間のデフォルメがうまいのだ。
しかしテレビ局はたぶん、こうしたドラマの本質をよく考えもせず、タイアップもできておいしいからと、安易にコミックス原作のドラマばかりを作ろうとする。その証拠に、視聴率的に冒険だからといって大胆なテーマを書かせないから、脚本家が育っていない。制作者に好奇心と想像力が失われていている今、挑戦的なドラマを観るのはどんどん難しくなりつつある。
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