私たちの心をむしばみつつある「アンチ」
[THE BIG ISSUE 2007年8月15日号]

 

 インターネットの発展を手放しではよろこべない。「アンチ」という言葉のニュアンスが微妙に変化しつつあるのをご存知だろうか? ネットに通じている人たちにとっ
て「アンチ」は、反対・反抗することではあるが、論争のマナーを超えて、特定の国・民族・組織・団体・個人をおとしめ、ひぼう中傷する掲示板やブログのことを指すようになっている。

 人に好き嫌いがあるのは避けられないことだし、上司や権力者の悪口を言わないとストレスはたまるばかりだろう。かつてはそれでも「悪口」を言い合うのはそう簡単なことではなかった。言う相手を探す必要があったし、「井戸端会議」があったのは、特定の場所にわざわざ集まらないと語れない、ということでもあった。

 ところがインターネットによって、あっという間に「同志」を見つけることができて、言い放題の楽しさにひたることができるようになった。人間は人をほめるよりは、けなす方が好きな動物だから、「同志」が集まれば、「負」のエネルギーは増幅していき、掲示板やブログを出撃基地にして、気に入らない人をやっつけにいくところまでエスカレートしていく。それにやっつける対象も、「いじめ」のように、たまたま見つけた、反撃して来なそうな個人を選ぶようにさえなっている。

 テレビを支える大きな勢力のひとつである芸能界は、もともとファンに情報を小出しにし、決してタレントにホンネを出させずに秘密をつくり、心配させ、ファンを取り込んでいく体質がある。これまでは、だからわからないことは仕方がない、とファンの側もそこでとまっていた。

 ところがネットは関係者が内幕をばらせるツールでもあるので、もっともらしい情報も流出する。たちまちそれは、ファンが真実にアクセスできそうな幻想を持つツールとなり、かえって疑心暗鬼や憶測、時には悪意さえ含む読み替えを生むことになった。

 あるロックデュオのファンの一部は、テレビをはじめとするメディアとネットに出る情報だけを信じて、相方のせいで自分のひいきしている方がひどい目にあっている、と考え、相方を「隣」と呼んだり、デュオをどくろのマークにしたり……は序の口で、ここには書けないような非難をネット上でくり返している。

 ここでそのファンがおかしい、と非難するのはたやすい。しかし私は、それ以上に、情報を徹底管理して、タレントの本心などいっさい知らせず、ファン心理を利用して儲けようと計り、「アンチ」を放置している事務所の責任は重大だと考える。テレビ局もそれにつるんでいる点で責任がある。「アンチ」がものすごい勢いで増えていて、その攻撃に傷ついて心を病んだり自殺する人さえ出ているインターネットの現状をぜひ知ってほしい。

 

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