窓辺 第5回「『アンチ』のこわさ」
[静岡新聞 2007年8月1日 夕刊1面]

 

 インターネットはいいことずくめではありません。最近「アンチ」と呼ばれる掲示板やブログ、つまり「悪口」を思いっ切り言い合う場所が急激に増えています。

 人生には悪口でも言わないとやっていられない場面もあるでしょう。しかしかつては、言う相手を探すのが大変でしたし、対象も自分より力が強くいばっている人でした。ところが今ではネットを通じて簡単に「同志」を探すことができます。掲示板に提起すればすぐ書き込みがあり、ブログを作れば同意見の人がやって来て盛り上がります。それも匿名でできますから、悪口はすぐにひぼう中傷までエスカレートしていきます。

 ストレス解消は容易にゲームとなり、権力者を批判するのではなく、自分より弱いものや少数派に対して叩くことで優越感を持ち、自分を歪んだ形で確認する方向へ変化していきます。事件の被害者までがプライバシーをあばかれ、人格を否定するような言葉を投げつけられます。これはまさに、先週書いた、社会の「温かみ」が薄れている例になります。

 実際に、あるタレントに対してまっとうな批判を書いただけで、そのタレントを絶対的に「信仰」している一部のファンから脅迫にも近いコメントやメールの山を受け取ってノイローゼになるなんて話が日常的に起こっています。そのタレントも、ネットで根拠のない攻撃を受け活動を休止することさえあります。ねつ造された悪評で生徒数を減らした学校もあります。ネットで「悪意」が増幅しているのです。

 『ひょうたん島』の島民たちは迷いこそすれ、最終的には同じ島で生きる仲間たちに、直接自分の言いたいことを伝えていたのが印象に残っています。「面と向かって」のやりとりを大事にしたいものです。