4月26日放送のTBS系「うたばん」(司会=石橋貴明と中居正広)の後味は非常に悪かった。大ヒット中の映画『ゲゲゲの鬼太郎』に主演していて、人気デュオWaTのメンバーでもあるウエンツ瑛士がゲストのひとりだったのだが、終始ウエンツは自分の話をさせてもらえなかった。
最初、ウエンツが2006年大みそかのNHK「紅白歌合戦」で司会の中居にあだ名で呼ばれたことへの怒りをぶつけるが、ほぼ無視され、映画の話になっても題名はちゃかされ、からかわれ続ける。
ゲストに映画の出演者である井上真央とYOUが加わっても、映画の苦労話やエピソードはまったく語られず、ウエンツが撮影中いかにみんなから浮いていたかを、誇張と嘲笑をふんだんに混ぜてえんえん「いじる」(人をからかいおとしめて笑いをとる、という業界用語)。ゲストまでウエンツにひどい扱いをする。終盤には「芸能界から3年くらい消えてみたら」という暴言の連発になる。
台本があるにせよないにせよ、ここまで徹底して司会+ゲスト=4人がウエンツを「的」にしていれば、集団「いじめ」と断ぜざるを得ない。映画も歌の話も出ない上に、井上真央とYOUのイメージダウンにもなる。事務所がそんなマイナスに対して何も言えないほど石橋あるいはTBSの権力が強いと推定される。
芸能界には「いじられてなんぼ」という言い方がある。いじめられようと、とんでもない罰ゲームをやらされようと、命にもかかわるパフォーマンスを求められようと、たくさん露出して売れたものが「勝ち」なのだ……と。
私は「お笑い」に「いじる」要素が含まれることは否定しない。しかしそれには限度というものがあり、そのギリギリのところでイヤな感じを残さないように「いじる」ことが芸なのではないだろうか。
そしてこれを見た視聴者への影響も少なくない。私がこのことを書いたブログには、小中学校でウエンツの「いじられ方」に似た「遊びに見せかけたいじめ」が起こっているというコメントがあった。教育が政治の土俵にあれこれと乗せられている今、道徳の必修化より先にテレビのバラエティを問題にすべきではないのか。「うたばん」同様のことは毎日のようにブラウン管の中で起こっている。
ただ政府に任せるのは両刃の剣で、ついでに放送の自由(特に風刺・権力批判)まで奪ってこようとするだろう。テレビ局も「おもしろければいい」とこんな番組を作り続けていると、大変なことになる危機感を持つしかない。しかし事態はもうかなり進んでいる。私のブログで、「うたばんを観ていて不愉快な気分になったことは」なく、度を過ぎた「いじり」こそが「おもしろい」と思い「型にハマった笑い」は「きっと飽きてしまう」、という主旨のコメントを複数もらってショックを受けた。テレビは視聴者の人間に対する感性を鈍らせることに見事に成功している。