窓辺 第2回「CDの『多種類販売』」
[静岡新聞 2007年7月11日 夕刊1面]

 

 いま、音楽業界では CD の「多種類販売」というのが定着してしまっています。シングルやアルバムを発売する時、CD は同じ内容なのに、DVD やキャラクターグッズなどの特別なおまけを付けたり、ジャケットを変えたりして何種類も発売するのです。

 一時的に売り上げを伸ばす緊急避難的な方法として、以前からあった手法ですが、CD が売れなくなったここ数年、ほとんどの CD が最低でも2種類発売されるようになっています。あるグループのデビュー曲など、メンバー一人ひとりと全員をそれぞれジャケット写真にして、7種類発売されました。

 それでも、CD の中身が変わらなければ、おまけなしの安い方にしよう、とか、好きなジャケット1枚にしようと選ぶ余地があります。

 ところが最近では、シングルだとカップリングの曲が異なったり、アルバムだと収録曲数が違ったりしている場合が増えてきました。これだと、好きなアーティストの曲はできるだけ聴きたくなるのが人情ですから、少しだけ違うほぼ同じ商品を全部買わねばならず、ファンの出費がかさみます。60年代の終わりからヒット曲を集め続けている私としても、悩ましいものがあります。

 レコード会社とその背後のプロダクションが、売れる時に売ってもうけようとしている姿勢がミエミエですが、私はこの売り方の最大の問題点は特に若い層が、自分の好きなアーティストの商品を買いそろえるのにお金がかかるために、他のアーティストの曲を聴く機会が減ってしまうことだと考えています。テレビで多様なヒット曲をじっくり聴ける番組がほとんどない今、音楽文化の進展に影響が出ることを危惧しています。