スポーツ中継の時間ミステリー
[THE BIG ISSUE 2007年5月15日号]

 

 3月24日、東京体育館で「世界フィギュアスケート選手権大会2007」の女子フリーが行われ、前日のショートプログラムと合わせて、安藤美姫が金メダル、浅田真央が銀メダルを獲得して日本中を湧かせた。

 この世界選手権は、大金をはたいてフジテレビ系が地上波の放送権を独占し、「ゴールデンタイム6夜連続」とキャッチフレーズをつけて、宣伝もぬかりがなかった。その結果、決勝の放送時間午後9時から10時54分までの平均視聴率は関東地区で平均38.1%、安藤美姫の金メダルが決まった瞬間(10時46分)は50.8%に達した。これは並みいるドラマを抜き2007年最高、トリノオリンピックで荒川静香が金メダルを取った時よりも大きく上回った。

 ……と書いているこの話にある嘘が混じっているのにお気付きだろうか。10時46分に安藤美姫は自分の金メダル獲得シーンをテレビで観ることができる……そんなミステリーが生じるのだ。

 実は3月24日、東京体育館で女子フリーが始まった時間は、午後5時30分、終了は9時20分であった。だから、中継が始まった時にはもう大勢は決していたのである。実際、ネット上ではすでに午後9時半前後には「安藤金メダル」が報じられていた。

 なのに午後10時46分に金メダルが決まったと思い込んでいる人はかなりいるはずだ。でなければこんな視聴率にはならないだろう。録画なのに実況だと思い込んでいることになる。

 当日の新聞記事を調べてみても、録画とはひとことも書いていない。逆に生中継とももちろん書いていない。こうして現実を時間的にずれて起こっていると錯覚させるのも、ねつ造なのではないか。生中継でないことは番組で一応示唆されるが、テンションの高い放送に流されてしまう。

 それともすでにスポーツ中継はそういうものだ、と納得して視聴者が楽しんでいるのだろうか。

 例えばバレーの様々な世界大会は、放送の出し方から結果を予想するという不思議なゲームを楽しむ視聴者が多数いる。第1セットを全部ノーカットでやって日本が負けていたら、この後逆転するところを全部見せる時間はないから、日本が負けたんだな、とか、日本が取られた第3セットをはしょってすぐに第4セットへ行ったのなら、勝ったのかもしれない……。寂しいクイズだ。

 つまり、テレビはスポーツ中継ですら、現実をそのまま見せてくれているわけではないのである。加工も簡単だ。

 初めはこのタイム・ラグを意識しているだろうけれども、慣れっこになって忘れてしまうことは大いにありうる。あるいは初めから気づいていない人もいることだろう。いずれにせよ、ますますテレビはリアルでなくなっていることを肝に銘じなければならない。テレビ局はリアルに装った方が視聴率が取れるから(事実取れた!)「これは録画です、ヴァーチャルです」と丁寧に教えてくれるはずなどないから。