今年も、もう3月の「風物詩」となったかのように、東大合格者が発表されて、その合格者数の高校別ランキングが話題になりました。ちなみに、この情報が掲載されている『サンデー毎日』(3月29日発売号)は、1年のうちで最も売れる号なのだそうです。
今年も、東京の私立開成高校がトップで、なんと24年連続となりました。ランキングの動向に対して、『サンデー毎日』をはじめとして様々な分析が行われています。開成の強さは、私の著書に譲るとして、目立つことをあげてみましょう。
中高一貫校が相変わらず強い。もう「古豪」という感じの、灘・麻布・桜蔭はもちろん、中堅の一貫校、海城・栄光・桐蔭・洛南・巣鴨もそれなりな位置をキープし、そこに新興の駒場東邦・聖光学院・渋谷教育学園幕張が割って入るという形で、一貫校同士のしのぎ合いが激しくなっています。
筑波大付属駒場と学芸大付属をのぞくと、公立高校は、ベスト20にすら入れない状態。都立高校の中で「進学指導重点校」として受験指導に改めて力を注ぎ始めた各校(西・日比谷・戸山・八王子東)が合格者数を延ばしたのが少し目立ちますが、最も多い西が18人ですから、成果の評価はこれからということになります。でも、東京都の教育委員会はどうなっているのでしょうか。卒業式で君が代を歌ったかどうか、その時起立していたかどうか等で教員を処分する、あるいは性教育を規制するなど、学校をより息苦しくする方針ばかり打ち出しています。そんな中での「進学指導」が「つめ込み」になってしまうのは必至だと思います。
特に、今年は千葉県にある「渋谷教育学園幕張」が前年の2倍以上に東大合格者を出して注目されています。この躍進にはいろいろ秘密があり、特待生制度の充実や、経営者主導の知名度アップ作戦など、稿を改めて紹介したいものばかりなのですが、ひとつだけとりわけ知っておいてほしいことがあります。それは、この学校の校風がけっこう自由だ、ということです。徹底的に生徒の生活を管理して、勉強を強いている体制ではないのです。組織よりも、授業内容などのソフト面を充実させているのです。これは、開成などの「古豪」校に共通して言えることです。
つまりこの事実は、受験勉強が、かなりハードなトレーニングになるマニュアルしか認知されていない現状で(だから私はもっと違う「受験道」を提唱しています)、それをこなして行く際、動機や勉強法こそが大事で、強制的にトレーニングさせても限界があることを示しているのです。実際、生徒の日常生活を校則でがんじがらめにし、学校ペースで大量の宿題を出し、生徒を受験に駆り立てても、東大合格者数を指標にしてみれば、あるところで止まってしまい、それをなかなか超えられないでいるのです。その代表は、桐蔭や巣鴨であり、寮生を中心にして躍進を目指したラ・サールや愛光が停滞どころか合格者数を激減させていることからも伺えます。
さらにこのことを例証する事実として、公立高校では、偏差値による「輪切り」はあっても、集まる生徒は私立よりも多様になります。また、露骨に受験教育だけを目標にするわけにもいきません。そうすると、可能なのは「管理教育」だけです。これは、有名大学合格を掲げずとも、生活指導という便利な「錦の御旗」を使って実行することができます。筑波大付属駒場と学芸大付属をのぞいた公立高校で、東大合格者数ランキングのトップに来るのは、愛知県の岡崎高校です。岡崎は、1970年代から、教育委員会(市ばかりでなく県レベルも)が学園闘争を起こさせないために「管理教育」を大々的に推進した地区で、今は少し緩和されましたが、小・中・高と、その生徒チェックにかけるエネルギーははっきり言ってこっけいなほどすさまじいです。その「成果」がこのランクと見れば、逆に「管理教育」の力と限界と恐さが想像できますね。
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